長時間労働のリスクについて

残業時間が多い会社は、働き方改革関連法の「残業規制」に抵触する可能性が高くなります。また、未払い残業等があった場合、4月以降のものは、時効が3年となっておりますので、注意が必要です。そこで、長時間労働、特に残業時間が多い場合のリスクとして残業時間数の上限があります。

復習の意味を込めてもう一度整理します。残業はもちろん青天井ではなく、延長できる時間外労働時間数は、以下の3つの条件を満たすようにしなければなりません。

【1】1年間の上限は720時間以内(休日労働を除いて)

【2】複数月(2~6か月)を平均して常に80時間以内(休日労働を含めて)

【3】単月の上限は100時間未満(休日労働を含めて)

今までは曖昧な部分があった企業の労働時間管理義務が明確化されました。例えば、出勤簿に押印をするだけの勤怠管理や、不適切な自己申告制によって、社員の過重労働等が見落とされることがありました。これを防ぐため、「労働時間の客観的な方法による管理義務」が定められたのです。これを守らないとどうなるのでしょうか?残業時間の上限を守らなかった会社等は、罰則として「6カ月以下の懲役」または「30万円以下の罰金」が科される恐れがあります。そして、罰則を受けた場合、懲役や罰金があるばかりでなく、程度によっては、厚生労働省によって企業名を公表されます。そうなってしまうと会社の取引などにも影響しかねません。労働基準法を守るということは事業継続に不可欠なことなのです。

さらに、従業員から訴えられるリスクもあるのです。

これに関する裁判があります。

狩野ジャパン事件 長崎地裁 令和元年9月26日

  • Aは会社と無期労働契約を締結し、会社の製麺工場で小麦粉をミキサーに手で投入する作業等を行っていた
  • Aは約2年の間、ほとんどの月で月100時間以上の時間外等労働を行っていた(具体的な疾病症状は無かった)
  • Aは会社に対し「時間外、休日、深夜労働等に対する未払賃金」、「労基法114条に基づく付加金」「長時間労働による精神的苦痛に対する慰謝料等」の支払いを求めて提訴した

そして、裁判所は以下の判断を下したのです。

  • 具体的疾病を発症していなくても、2年余にわたり労働者に過重労働を続けさせた行為は安全配慮義務違反に当たると判断した
  • 会社に損害賠償の支払いを命じた(慰謝料30万円)

この裁判を詳しくみていきましょう。

脳、心臓疾患発症などの原因となった過重労働に対する安全配慮義務が問われるのがこれまでの一般的ケースでした。となると、この判決は異例といえます。従業員に疾病症状がなくても慰謝料が認められたからです。となると、会社としては従業員から健康被害の訴えがないからといって過重労働を続けさせていると、退職後などに提訴される可能性が高くなります。過重労働そのものが社会的に強く問題視されている現在、今後は同じような紛争が増加する可能性があるでしょう。事例の判断によると、従業員が具体的な疾病を発症していなくても、安全配慮義務を怠って長期間にわたり心身の不調を来す危険のある長時間労働に就かせたとして罰則が適用となっています。それは、「人格的利益」の侵害による不法行為と断じているのです。人格的利益の侵害により従業員に精神的苦痛を与えたことは容易に推察できるとして慰謝料の支払いを命じたのです。

労基法改正により、さらに残業規制は罰則規定を含め厳格化され、残業代の消滅時効も3年に延長されました。残業問題は、今後も紛争が多発することが当然に予想され、会社側の万全な対応が必要となってくるでしょう。何かが起こった時は「手遅れの場合」が多くあるのです・・・。