就業規則の不利益変更を有効にするにはどうしたらよいでしょうか?

就業規則は、従業員の労働時間や賃金などの労働条件のことや、職場内の規律等についてまとめたものです。そして、就業規則は常時10人以上の従業員を使用する会社で作成し、労働基準監督署への届出が義務付けられています。就業規則があることで、会社は社内ルールを明確に従業員に示すことができます。さらに、社内秩序を守ることができます。そして、就業規則は会社の判断で変更できますが、労働条件が不利益変更である場合は、従業員の過半数で組織する労働組合、または過半数を代表する者と合意することが必要です。ただし、就業規則の変更に反対する従業員がいたとしても、その変更が合理的な変更と認められる場合は、就業規則の不利益変更は可能とされているのです。

また、ここでいう「合理性」とは、以下の要素を考慮して判断されます。

〇従業員の受ける不利益の程度

〇労働組合などとの交渉の状況

〇変更内容の相当性

〇そのほかの事情

不利益変更については、

〇変更についての企業側の必要性が高く

かつ、

〇従業員の不利益性の小さい

場合には合理性が認められることが多いです。

しかし、「企業側の必要性は高いが、従業員の不利益も大きい」といった場合には「丁寧な説明」のもと、合意を求める必要があります。具体的な不利益な変更の例をみてみましょう。就業規則の不利益変更でイメージしやすい例には、以下のようなものが挙げられます

  • 賃金の引き下げ
  • 手当の廃止
  • 労働時間の変更
  • 年間休日の削減
  • 福利厚生の廃止や減額

会社からもらえる賃金、手当が引下げられることは、従業員に金銭的不利益があるといえるでしょう。ほかにも、従業員のメリットが無くなる場合は、不利益変更になる可能性があります。では、不利益な就業規則変更の裁判事例をみてみましょう。

住友重機械工業事件 東京地裁 平成19年2月14日

  • 会社は、大幅な損失を計上したことを理由に、従業員への報酬を減額した。
  • 当時の状況は、業績不振から企業の株価も下がり、債券格付けも格下げされてた。
  • 経営陣は事態の改善のため、2002年から2003年度にわたる基準賃金で平均10%ほどの総労務費の削減を盛り込んだ対策を実施した。
  • これに関して従業員側から就業規則の変更は不利益変更で、無効であると主張し、裁判を起こした。

そして、裁判所は次の判断をしました。

  • 経営危機回避を目的とした会社側の労働条件変更に対して合理性が認められた。

この裁判では、就業規則の変更も、それが合理的なものである限り、これに同意しない従業員に対しても拘束力が認められるとしています。事例の裁判の場合、社員の98%超を占める住重労組、ほかの労働組合も同意していること等をも踏まえ、合理性を有し有効とされている点がポイントです。そして、10%の減額について、不利益の程度との相関関係で判断され、大多数の同意が有効性を後押ししているのです。

事例のように、賃金等の労働条件を不利益変更するのには、同意は必須と考えられます。大手の会社であれば、労働組合等で包括的な同意を行うことが可能です。しかし、中小、零細企業では、労働条件が変更される全ての従業員の同意が必要になるので、個別の同意書をとりましょう。具体的には「変更前の金額→変更後の金額」を記載し、いつから変更するかを明らかにした書類を作りましょう。もし、皆さんの会社で労働条件の不利益変更を行うなら、丁寧な説明を行い、同意を一人ひとりからもらいましょう。事務的に煩雑かもしれませんが、この作業を行うことで、法的に無効となるリスクが抑えられます。そうすれば、労働条件変更後の就業規則も有効となり、労使トラブルのリスクがグッと抑えられるのです。