デューデリジェンスは、企業価値の査定や法律に関わる資産について調査する作業のことを指します。意思決定や判断する際の情報や材料収集のために、努力して行なう当然の義務活動、または作業と解釈することができるでしょう。

デューデリジェンスの目的

デューデリジェンスは、投資や企業取引、合併や買収(M&A)などの際に対象となる企業の価値やリスクを詳しく把握するために実施されるものです。たとえば、金融機関においては、プロジェクトファイナンス(融資活動)の際に対象企業について実施されています。

デューデリジェンスは一定のものではなく、企業に関するさまざまな側面からの審査するもので、その種類は多岐にわたります。一般的にデューデリジェンスとは、M&AやIPO、事業承継などといった際に、企業の監査として行われます。その種類はいくつかあり、主に「財務」「税務」「法務」「ビジネス」「労務」となります。以前は、デューデリジェンスといえば、「財務」「税務」などの財務状況を正しく把握するために行われるものや、「法務」では法令が正しく順守されているかを検証するものが一般的でした。

しかし、最近では長時間労働による過重労働、またサービス残業による残業手当の未払問題、労使トラブルなど、従業員の人事労務に関する問題が、M&AやIPOなどに、大きな影響を及ぼすものとして着目されるようになりました。そして、労務デューデリジェンスの注目が高まってきたのです。

次に、労務デューデリジェンスが実施されるケースをみていきましょう。

IPO(株式上場)前に労務デューデリジェンスを行う

IPO(株式上場)申請においては、主幹事証券会社や証券取引所により、「上場企業として適切な経営体制が整っているか」の審査が行われます。とくに人事労務分野は、働き方改革関連法の施行に伴い、審査には厳しい目が向けられます。就業規則や給与規程などの諸規程が労働関係法令に違反していないかの順守状況や、運用に問題がないかなどについて、調査されていくことになります。労使トラブルや訴訟、行政処分の有無は、審査に影響を及ぼし、上場申請が通りません。

そして、とくにIPOでよく問題になるものとして、未払い残業問題があげられます。その他にも、過重労働やハラスメントに関する問題なども重視されます。IPOを目指す企業においては、業績や財務・資産状況などに問題がなくても、これらの人事労務領域に問題がある場合には、株式公開ができなかったり、延期せざるを得ないということにも陥ります。前述の未払い残業に関する法令違反は、消滅時効が2年です。少なくとも、IPOを行う際の過去2年内に未払い残業問題がないかなど、事前に労務デューデリジェンスを行い、労務管理を徹底しておく必要があるでしょう。※2020年4月以降の債権からは消滅時効3年

M&A前に労務デューデリジェンスを行う

新規事業や市場への参入、グループ再編、事業承継をはじめ、M&Aを行う企業も増えました。効率よく経営資源を入手するといった成長戦略の一つの手法になっており、企業価値を高めることを目的にしています。それにはM&A実行後に、企業価値が下がる可能性のあるリスクがどのくらい潜んでいるのかを、正確に調査する必要があるのです。前述のIPO時同様、労働関係法令に違反していないかの順守状況や、人事制度や就業規則の内容やその運用実態や、給与の支払いや社会保険の加入状況が適切かどうかなど調査されます。さらに、組織風土や社内のローカルルール、福利厚生制度の実施状況、採用ポリシーや活動状況、従業員の性別・年齢構成、離職率や離職事由、休職者の状況などの調査も必要でしょう。また、過去の懲戒処分やその経緯や理由に至るまで丁寧に確認を行っていきます。

もしも労務管理がずさんな企業などを買収した場合の影響は計り知れません。M&A前に行われる労務デューデリジェンスでは、会計帳簿にはあらわれていない簿外債務がないか、トラブルなどの発生によって可能性のある偶発債務を洗い出していきます。労働関係に起因する隠れ債務を明らかにする重要な作業です。

売り手企業に潜む隠れ債務、法令違反等のリスクを洗い出すことで、買い取り価格に反映していくのです。

定期的に労務デューデリジェンスを行う

IPOやM&Aの例にもあるように、企業の人に関わる労働環境への注目度は、年々増しています。法令遵守は当たり前ですが、柔軟な働き方の推進、ワークライフマネジメントなど、人に関わる労働環境整備を高いレベルで兼ね備えている企業が求められています。しかしながら、労務に関しては法定監査というものがないため、自社の状況がきちんと法令順守されているのか、一体どの程度のレベルであるのか、把握できていない企業もあるのではないでしょうか。定期的に自主点検を行っているという企業は少ないでしょう。

そこで行うのが定期的な労務デューデリジェンスです。通常は外部の専門家の視点で、法令遵守の労務管理が行われているかの確認を行います。

PMIについて

PMIとは

PMIとは、M&A(企業の買収・合併)による組織の再編・統合においては、合併などの手続きを行えば終わりというわけではありません。合併を行う際には、これまで別々であった複数の組織を統合し、本当の意味で一つの組織にしていかなければなりません。

労務に関するPMI(Post Merger Integration/ポスト・マージャー・インテグレーション)支援では、新しい組織体制の下における

■ 労働条件
■ 人事制度
■ 就業規則
■ 労務管理

等の方法などの統合を行います。

シナジー効果を生むには

人事労務領域では、いつまでも一国二制度のままにしておくとシナジーが生まれないことから、労働条件の統一化を図る必要があるほか、M&Aによって膨れ上がった人員を削減しなければならないケースも出てきます。M&Aというととかくデューデリジェンスに脚光が当てられますが、人事労務領域ではPMIに多くの力量を要し、PMI次第でM&Aの成否が決まるといっても過言ではないといえます。