部署廃止における整理解雇の有効性について

コロナ禍の現在、業種によっては深刻な状況が続いています。廃業、倒産、人員整理などのご相談がじわじわと増えています。助成金や給付金などで一時的に雇用や資金繰りをつないでも、先の見えない状況下では、対策がたてられないというのが経営者の本音ではないでしょうか?

そんな中、ある会社の事業部廃止のご相談がありました。会社は存続しますが、1つの事業部を廃止するとのことです。そこで、この事業部に所属する従業員の処遇について、どの様に対応するのかが主な相談内容でした。そして、他の部署に吸収するにも限界があり、最終的には整理解雇を検討せざるを得ない可能性も出てきたのです。しかし、会社は継続するので、整理解雇が有効となるのか?といった疑問が出てきたのです。

これに関する裁判があります。

学校法人奈良学園事件 奈良地裁 令和2年7月21日

  • 学校法人は、2012年、ビジネス学部・情報学部を現代社会学部に改組した
  • そして、新たに人間教育学部と保健医療学部を新設する「再編」を計画した
  • 現代社会学部が設置できなければ、ビジネス学部・情報学部は存続させるとの教授会の付帯決議がなされた
  • ところが、法人は、2013年に現代社会学部の設置申請を取り下げながら、この付帯決議を撤回させて、2014年4月以降、ビジネス学部・情報学部の学生募集を停止した
  • そして、両学部の教員には、2017年3月末までに、「転退職」することを迫った
  • これに反対したAらが私大教連傘下の教職員組合を結成し、その後、奈労連・一般労組にも加入し、団体交渉等で大学教員としての雇用継続を求めた
  • 法人は、これに応じず、「転退職」しなかった教員12名を2017年3月末日付で、解雇・雇止めした
  • このうち組合員8名(1名は途中で訴訟取下)が、裁判を起こした

そして、裁判所は以下の判断を下したのです。

  • Aらは職種限定で雇用されたとしても整理解雇法理の適用は排除されないと判断
  • 異動は不可能といえず、総人件費引下げの努力もなく解雇回避努力を尽くしたとは認めなかった
  • 経営破たんなど逼迫した財政状態にはなく、労組と協議が尽くされたともいえないなど4要素を欠くとした
  • 整理解雇が違法・無効であるとした

→法人側敗訴となる

この裁判を詳しくみていきましょう。

今回の判決は、学部再編を理由とする解雇、雇止めにも、整理解雇法理が適用されることを明言したものです。

その整理解雇の4要件は以下となります。

(1)人員削減の必要性

(2)解雇回避努力を尽くすこと

(3)解雇者の選定の客観的に合理的な基準を設定し、公正に適用すること

(4)誠実に協議すること

以上を厳格に要求しています。

判決は、本件解雇では、このうち3つの要件が満たされていなかったと判断しています。とりわけ、判決は、学校法人に対して、大学教員としての雇用を継続する努力を尽くすことを求めています。つまり、法人がAらを他学部に異動させることができるかどうかの検討の前提となる文科省による教員審査を受けさせる努力をしていないとしました。この点、法人は、Aらが専門外の学部の教員審査に合格するはずがないとか、系列の小中学校教員や大学事務職への配転の希望を募るなど解雇回避努力をしたと主張しました。しかし、判決は、このような措置だけでは、大学教員としての雇用確保努力を尽くしたことにならないと判断したのです。

実際の例で、経営がひっ迫しているとまでは認められないような場合には実務的には「解雇回避努力」が焦点になることが多いです。この解雇回避努力は、解雇を行う前に、配転や出向措置によりなるべく雇用を確保する努力が問われます。そして、職種、勤務地を限定された従業員の場合でも、直ちに配転や出向措置を不要とされるものではないとされています。経営の状況がひっ迫していなくても、「解雇回避努力」が疎かになれば、解雇は無効となると考えるべきでしょう。