競業避止義務の有効性について

先日、顧問先の社長から連絡がありました。「競業避止義務契約に有効性があるかどうか、判断するポイントについても教えてください」

競業避止義務とは、「在職中の会社と競合する会社や組織への転職」や、「競合する企業の設立」などの競業行為をしてはならないという義務のことを言います。競業行為は自社の不利益につながる恐れがあるため、競業避止義務に違反しそうな従業員への対応や、競業避止義務の有効性について、対応を考えている会社がほとんどでしょう。ただし、雇用の流動化が進む現在では、会社の機密情報をいかに管理するかが、重要な課題となっています。

元従業員による

  • 内部情報の持ち出し
  • 競業での起業
  • 従業員の引き抜き

が横行すると、重要な内部データが流失することになります。また、それだけではなく、時間をかけて培ったノウハウやスキル、企業文化を失いかねません。そして、機密情報などは、顧客情報があるので、プライバシー保護の観点からも競業避止義務の必要性は明らかでしょう。

では、具体的に従業員に競業避止義務を課すにはどうしたら良いかもいてみましょう。まず、重要なポイントとして、入社時の誓約や就業規則に含まれる競業禁止特約によって定められていることです。これが明確にルール化されていないと、競業避止義務は課せられないのです。所属する会社の不利益となる競業行為を禁ずるもので、義務に違反した場合は、退職金の支給を制限したり、損害賠償を請求したり、競業行為の差止めを請求したりといった処罰を取り決めていることが重要です。

そして、義務の対象は、

  • 在職中の違反行為
  • 退職したあとの業務

となっています。

会社としては自社のノウハウや機密漏洩は避けたいですが、退職後の従業員の行動を取り締まることは、職業選択の自由を奪ってしまいます。このため従業員と企業で、競業避止義務の有効性について裁判によって争われることもおおくあるのです。取り決めた競業避止義務が有効性を判断するために、経済産業省が発表している「近年の判例におけるポイント」が記載されているものをみてみましょう。

それは6つの観点から、競業避止義務契約の有効性が判断されています。

  • 守るべき企業の利益があるか
    不正競争防止法によって明確に法的保護の対象とされる「営業秘密」や個別の判断においてこれに準じて取り扱うことができる妥当な情報やノウハウを持っているかどうか。
  • 従業員の地位
    形式的に特定の地位にあるというより、企業が守るべき利益を保護するために競業避止義務を課すことが必要な従業員であったかどうか。
  • 地域的な限定があるか
    業務の性質などに照らして合理的な絞り込みがなされているか。
    有効性が認められた例)「地理的な制限がないが、(原告が)全国的に家電量販店チェーンを展開する会社であることからすると、禁止範囲が過度に広範であるということもない」と判断。(東京地判 H19.4.24)
  • 競業避止義務の存続期間
    概して1年以内の期間については肯定的にとらえられているが、特に近時の事案においては、2年の競業避止義務期間については否定的。
  • 禁止される競業行為の範囲について必要な制限があるか
    例えば在職中に担当していた業務や在職中に担当した顧客に対する競業行為を禁止するというレベルの限定であっても、肯定的な判断をしている判例も。
  • 代償措置が講じられているか
    競業避止義務を課すことの対価として明確に定義された代償措置でなくても、代償措置(みなし代償措置も含め)と呼べるものが存在するかどうか。

(参考資料)経済産業省「競業避止義務契約の有効性について」

競業避止義務の契約は、会社側が守るべき利益を保全するために必要最小限の成約を課すことや、従業員に対して過度に職業選択の自由を制約しないための配慮が重要になってきます。

 このことを踏まえて退職後も元従業員の方といい関係でいられれば良いのですが、会社を守るためにもトラブルにならないように準備しておくことが一番大事です。万が一のことを考えて、競業避止義務契約書を作ってみてはいかがでしょうか?