有給休暇に対して支払う額はいくらなのか?

有給休暇は「休暇だけれども、賃金が発生する」制度です。では、皆さんの会社で社員に有給休暇を与えた場合、いくらの賃金を支払えばいいか?をご存知ですか?

たとえば、有給取得時に支払う賃金額は、通勤手当も入れて計算するのでしょうか?

従業員などが有給休暇を取得した場合、会社は以下の金額を支払わなければなりません。

「労働基準法 第39条第9項:平均賃金若しくは所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金又はこれらの額を基準として厚生労働省令で定めるところにより算定した額の賃金を支払わなければならない」

この「通常の賃金」に、通勤手当が入るかどうかがポイントとなります。まず、法的な部分からみてみると、通勤手当は会社に支払い義務があるものではありません。そのため、有給休暇に対して必ず支払う義務は生じません。しかし、労働基準法の附則第136条では以下と定められています。

「使用者は、第39条第1項から第4項までの規定による有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取り扱いをしないようにしなければならない」

これにより、通勤手当が「賃金の一部」として、毎月、一定額が支払われているならば、通勤手当も加味して計算しないといけない可能性が出てきます。これを加味せずに計算したいならば、就業規則に「通勤手当は出勤した日に対してのみ支払う」という旨を明記しておくべきでしょう。通勤手当は「法的に義務づけられたもの」ではないため、会社の「規定」が重要になってくるのです。

では、他の手当等は「賃金の一部」に該当するのでしょうか?たとえば、残業手当です。これについては、通達があり、有給休暇に対する賃金としては加味しないでOKです。

次に、上記以外の手当等はどのようになるのでしょうか?

これに関する裁判があります。

日本エイ・ティー・エム事件 東京地裁 令和2年2月19日

  • コールセンターのオペレーターとして働いていたAが「有給休暇を取得した際に支払われるべき賃金に問題がある」と主張。
  • シフト勤務手当、日曜・祝日勤務手当、時間外手当、深夜手当に未払いがあり、これが賃金に含まれていない、として請求を起こした。

そして、裁判所は以下の判断を行ったのです。

  • シフト勤務手当:所定労働時間に対して支払われる通常の賃金に当たり、有給休暇の計算上、加味しなければならない。
  • 日曜・祝日勤務手当、時間外手当、深夜手当有給休暇の計算上、加味する必要はない。

この裁判を詳しくみてみましょう。

まず、支払うとされたシフト勤務についてです。シフト勤務手当は「通常の賃金に当たる」と判断されました。しかし、会社は契約社員用の就業規則で「年次有給休暇を取得した場合の賃金について、シフトに係る手当は含まない」と規定しているので「有給休暇の計算上、加味する必要はない」と主張したのです。これに対して裁判所は「就業規則は労働基準法に違反し、この部分は効力なし」と判断したのです。従業員等が有給休暇を取得した場合、「シフト勤務手当も加味しなければならない」と判断したのです。さらに、日曜・祝日勤務手当、時間外手当、深夜手当は通達により「加味する必要はない」と判断されました。

ここでポイントとなるのが就業規則の記載についてです。この裁判ではシフト勤務手当について、就業規則で有給休暇取得の計算から除外されていたのです。しかし、その手当の趣旨や就業規則で除外した理由を会社側が十分に主張しなかったこともあり、この手当は「単なる通常の賃金の上乗せ」であり、「加味するべき」と判断されたのです。

よって、「手当の趣旨」「通常の賃金ではない理由」を意識した記載が就業規則には必要なのです。