新型コロナウイルスの影響で売上減少による解雇は可能でしょうか?

先日、都内のタクシー会社が新型コロナウイルスの感染拡大で、グループの全社員600人を解雇したという報道がありました。これは、政府が緊急事態宣言を発令したことで外出が減り、業績の低迷が避けられないと判断したためということです。そのため、会社は営業を一時停止して、社員を解雇し、生き残りをかけたのです。会社が解雇を選んだ理由として以下のように伝えていました。「休業手当を支払うよりも、解雇された従業員が雇用保険の失業給付を受けた方が、金額が多くもらえる」。会社は「コロナウイルスが収束した場合、希望者の再雇用を検討している」と話していました。

このタクシー会社の例は氷山の一角で、「解雇の事例が多く出てくるのではないか?」と予想されます。

しかし、解雇は簡単ではありません。特に「会社の財政悪化に伴い、人件費削減のための解雇は、整理解雇の4つの要件すべてを充足することが必要」とされているのです。

これに関する裁判があります。

三田尻女子高校事件 山口地裁 平成12年2月28日

  • 学校は「生徒減による経営難」を理由に、21名の人員削減を行った
  • しばらくして、同様の理由により希望退職を募集し、10名の教職員に対し、指名退職勧奨を行った
  • そして、退職勧奨を受け入れなかったAらを含む7名の教員に対し「財務状況が極めて厳しいため、即時解雇する」旨の意思表示を行った
  • Aらは「解雇無効」を訴えて裁判を起こした

そして、裁判所は以下の判断を行ったのです。

  • 本件解雇は、許容される整理解雇の場合に当たらず無効である
  • Aらの主張が通り、学校側の主張は通らなかった

この裁判を詳しくみていきましょう。

一般的に、会社の財政状態の悪化に伴い、人件費削減のために行われる整理解雇は、従業員の責に帰すべ事由がないのに、一方的に失わせるものです。そして、従業員の生活に与える影響も甚大なものがあるから、それが有効となるためには以下の要件を具備しないと有効とはならないのです。

通常、整理解雇の4要件と言われています。

そして、その内容が以下となっています。

  • 経営上、人員削減を行うべき必要性があること
  • 解雇回避の努力を尽くした後に行われたものであること
  • 解雇対象者の選定基準が客観的かつ合理的であること
  • 労働組合又は労働者に対し、整理解雇の必要性とその時期・規模・方法につき、納得を得るための説明を行い、誠意をもって協議すべき義務を尽くしたこと

以上の各要件すべていずれも充足することが必要とされているのです。 

そして、事例は使用者が学校で、Aらは教員であるような場合、安易な教員数の削減は、教育の質の低下を来たし、そのしわ寄せを生徒に押しつける事態になるおそれがあります。

よって、教員の整理解雇に当たっては、整理解雇の制限が、一般企業に比べてより厳格な判断基準の下に適用されるべきとなっていました。 

これが一般の会社であれば「高度の経営危機にあり、人員削減以外の打開策がない」場合は整理解雇が認められる裁判もありました。

  • 住友重機事件(岡山地裁 昭和54年7月31日)
  • 東洋酸素事件(東京高裁 昭和54年10月29日)
  • ナカミチ事件(東京地裁八王子支部 平成11年7月23日)

などがあります。

今回のコロナウイルスでの業績不振の場合、解雇を回避する方法がないか等を国の支援策も踏まえ検討し、慎重に判断をする必要があります。そして、売上減少したのはコロナのせいだから、「即解雇が許される」とはなりません。まずは、雇用維持支援策や、資金繰り支援等の政府等からの支援策を検討して、使えるものは積極的に使いましょう。