懲戒処分を行う際に、必要なことは?

新型コロナウイルスの影響から、多くの企業がテレワークを実施してきました。その中で、今までとは違う働き方が求められる会社も多くなり、このような環境の変化で、経営側と従業員側の意識のずれも散見されます。

従業員「以前はOKだったことが、なぜ、いけないのですか?」

経営者「今までとは異なる働き方が求められるのです。」
このようなことが起きているのです。
特に、テレワークの場合、コミュニケーションの分量も不足しがちなため、一度掛け違えたボタンがなかなか元には戻らなくなってきたのです。そして、些細なことからトラブルが発生して、その傷口が大きく広がるケースが出てきたのです。そして、会社側は「解雇したい」「懲戒処分にしたい」と結論を急ぐことが多くなったように感じます。

最近でも多くのご相談が当社に寄せられております。この問題を考える上で重要なのが就業規則などですが、多くの会社で不備が見られます。まず、懲戒処分を実施するにはルールが必要で、それを明記しているのが就業規則などです。
 懲戒処分は、就業規則などの労働契約に基づき行なうものなのです。そして、会社側は自由に処分を決めることができますが、実際に処分を下す場合には十分な注意が必要となります。
処分をするにあたり、
〇懲戒処分の事由
〇処分の程度
が就業規則などに明示されていることが必須となります。そして、この就業規則などが周知されていることも必要です。
また、
〇懲戒処分の対象になる事実が明確になっていること
〇労働者本人に弁明の機会が与えられていること
〇状況により、処分対象者の上司も連帯して処分される場合があること
など、処分が不当とされないようにする必要もあります。
 今までの多くの裁判例は「弁明の機会が無くても、懲戒処分の効力に影響を与えない」という立場でした。しかし、これがくつがえる裁判が出てきたのです。

テトラ・コミュニケーションズ事件 東京地裁 令和3年9月7日

〇従業員Aが「けん責処分は違法無効」とし、会社に損害賠償等を求めた。

〇処分の理由は、確定拠出年金移行に必要な書類の提出を求めた会社対し、脅迫的な言動をしたことだった。

→就業規則に懲戒処分審議の時、本人弁明の機会の有無の記載はなかった。

そして裁判所は以下の判断を下しました。

  • 就業規則などに規定がなくても弁明の機会を与えるべき
  • 懲戒事由の「非協力的で協調性を欠くか否か」は、経緯や背景も確認する必要がある。
  • 手続の相当性を欠き、処分無効で慰謝料10万円を会社に命じた。


 この判決はこれまでの裁判例の傾向と異なり、弁明の機会を与えなかったことが重大な手続きの瑕疵とし、今回のけん責処分を無効としたのです。別の裁判(東京地裁 令和3年3月26日)でも「就業規則の定めがなくても、懲戒処分が社会通念上相当といえるためには、処分の労働者に弁明の機会が与えられるべきである」としていました。このように弁明の機会の有無が懲戒の効力に影響する以上、皆さんの会社で懲戒処分を行うならば、「弁明の機会は必須」と考えるべきなのです。
 それは就業規則などに弁明の機会に関する記載の有無に関わらず、そして、重い処分ではなく、軽い処分のけん責でも、弁明の機会が必要なのです。
 上記の裁判例もあることから、皆さんの会社の就業規則に「懲戒処分を行う場合、本人に弁明の機会を与えるプロセスがあるか?」ということを確認してください。
 そして、実際に懲戒処分を行う場合にはこのプロセスを守って、実行してください。そうしないと、皆さんの会社が下した懲戒処分の有効性が危ぶまれるのです。