ポジションの変更で給与は下げられますか?

コロナ禍の現在、解雇、退職勧奨のご相談とともに、給与の減額についてのご相談も多いです。多くの会社は、より、組織を見直して、その結果、「ポジションがダブってしまう」事への対応に苦慮されています。そして、「労働条件の不利益変更はその程度容認されますか?」「役職を外して、手当を支給しないことは、不利益変更に該当しますか?」などのご相談が多いです。
労働条件の不利益変更をする場合は、「労働者の同意」「就業規則の変更」「労働協約の変更」などの手続きが必要となります。このように労働条件の不利益変更は「ハードル」が高く、決まりを変えて即実行とはいかないのです。
しかし、業務が変わり、ポジションが変わることも組織の中ではよくあります。例えば、プロジェクトのリーダーを任せられていて、プロジェクト終了後、別の業務で、同様のポジションがないこともあります。そんな時、適当な配転先がないとき、前と同じ給与支払が難しい場合もあります。この場合、給与を下げることができるのでしょうか?
これに関する裁判があります。

L産業事件 東京地裁 平成27年10月30日

  • 社員Aは、会社の医療事業部医薬情報部のチームリーダーとしてマネジメント職の「E1」グレード区分に格付けされていた。
  • 平成25年6月、Aが所属していたチームが解散することになり、Aは7月1日付で医薬事業部臨床開発部医薬スタッフとし、グレードを医薬職・ディベロップメント群の「医薬1」に変更された。
  • Aは降級前のグレードにつき労働契約上の地位を有することの確認、降級前後の賃金差額等の支払いを求めて裁判を起こした。

そして、裁判所は以下の判断を下したのです。

  • Aへの人事発令及びこれに伴うAへのグレード変更を有効とした。


この裁判をみていきましょう。

Aに対する担当職務の変更を内容とする人事発令については、これに伴うグレード及び給与等の労働条件の変更を含め、有効とされました。
そして、裁判所は給与等の労働条件が無効となる理由を挙げたのです。
それは、「業務上の必要性がない場合」「業務上の必要性が存する場合であっても、それが他の不当な動機・目的をもってされたものであるとき」「Aに通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき」の場合が、人事権の濫用として無効になると判断したのです。
事例の裁判では、チームの解散によりAの従前の職務、役職自体なくなり、よって、Aをリーダーの地位から外すことについて業務上の必要性が認められるのです。また、不当な動機・目的があったことをうかがわせる証拠は見当たりません。
そして、減額でも、職務内容・職責に変動が生じていることを勘案すれば通常甘受すべき程度を超えているとみることはできないと認定されたのです。この裁判は、人事命令の業務上の必要性や労働者の被る不利益を比較的緩やかに認定しているのがポイントです。この事例の裁判所がかかる判断枠組みを示したのは

  • 会社の就業規則・給与規則上職務分類が明示されている
  • 職務に応じて賃金が決定されることが明記されていた
  • 実際に職務変更に伴い賃金減額が実施されてきたという実態があったこと


以上が前提となっていたのです。