懲戒処分を実施するに際して

懲戒処分とは、企業の秩序を乱すような行動をした従業員に対して与える制裁を指します。その種類は注意の意味を持った「戒告」から「懲戒解雇」まで7種類あります。

では、懲戒処分の7種類を紹介します。

  • 戒告(くんかい)
    「今後行わないように」と口頭や文章で注意します。
  • 譴責(けんせき)
    始末書を出すレベルの問題を起こしたため、「今後は二度と起こさないように」と誓約を結ばせる指示する処分です。
  • 減給
    給料を差し引かれることを指します。
    ただし、差し引く金額は「一回の減給金額は平均賃金の1日分の半額を超えてはなりません。また、複数回規律違反をしても、減給の総額が一賃金支払期の金額(月給なら月給の金額)の10分の1以下でなくてはなりません」と限度が決められています。
  • 出勤停止
    一定期間の出勤停止を命ずる内容です。出勤停止の期間、対象者は勤務ができないため、賃金が支払われません。出勤停止は減給と異なるため、労働基準法を確認しながら期間を決定しましょう。
  • 降格
    役職や職位などのポジションを下げる、あるいは職能資格を取り上げることを指します。こちらは懲戒処分としての降格で、人事権行使としての降格とは意味が異なります。人事権行使としての降格の場合は能力が不適任とみなされれば、会社側の判断で自由に行えます。しかし、降格のきっかけが従業員の権利行使である場合、2段階以上の降格、退職への追い込みが目的の場合は違法です。

    対して懲戒処分の場合の降格は、ハラスメントや社内規則違反の制裁であるため、下記5つをクリアしていないと処分無効となります。
    ◯就業規則上、降格の理由に該当するような行動があったか
    ◯証拠があるか
    ◯規律違反の程度が降格に値するか
    ◯過去の懲戒処分内容と重複していないか
    ◯弁明の機会を与えたか
  • 諭旨解雇
    一方的な解雇ではなく、企業や従業員間で話し合いを設けた上で退職を促します。退職届の提出があった場合は自己都合退職、提出がなければ解雇となります。諭旨解雇の場合、退職届を提出すれば自己都合退職として扱われることがあり、その場合は退職金などが支払われます。
  • 懲戒解雇
    規律違反などにより会社の秩序を乱した場合に、労働者を解雇する目的で行う処分を指します。懲戒解雇では退職金が支払われず、履歴書にも懲戒解雇と記載しなければならないなど、労働者にとって大変重い懲戒処分となっています。紹介処分を実施するにはプロセスが重要となります。特に、行為者に弁明の機会を与えるか否かです。

これに関する裁判があります。

テトラ・コミュニーケーションズ事件(東京地判令3・9・7) 

  • けん責処分は違法無効として、従業員が会社に損害賠償等を求めた。
  • 処分の理由は、DC移行に必要な書類の提出を求めた会社に対し、脅迫的な言動をしたことだった。

そして、裁判所は以下の判断下したのです。

  • 業規則等に規定がなくても弁明の機会を与えるべきと判断した。
  • 懲戒事由の「非協力的で協調性を欠く」か否かは、経緯や背景も確認する必要があるとした。
  • 手続的相当性を欠き処分無効で、慰謝料10万円を命じた。

この事件の争点は懲戒処分において本人の弁明の機会を欠くことがその効力に影響を与えるか否かです。就業規則や労働協約に弁明の機会を付与することが定められている場合は、その手続きの欠如は特段の事情がない限りその処分を違法とすることはほぼ争いがありません。

問題は弁明の機会の規定が存しない場合に弁明の機会を与えない懲戒処分の効力がどうなるかです。事例の判決はこれまでの裁判例の傾向と異なり、弁明の機会を与えないのを重大な手続き的瑕疵とみて、該けん責処分を無効とした点です。

なお、東京地判(令3・3・26)も「就業規則の定めがなくても、懲戒処分が社会通念上相当といえるためには、特段の支障のない限り、処分の対象となる労働者に弁明の機会が与えられるべきである」としており、弁明の機会必要が裁判例としても増えています。

このように弁明の機会の欠如が懲戒の効力に影響する以上、会社としては弁明の機会を与えることは、本人がその機会を放棄したなどの特段の事情がない限り必須と考えた方がよいでしょう。