インターネットに会社の悪口を書かれたら…

インターネット上のコミュニケーションはSNSが発達し、軽い気持ちで情報を発信できる時代となっています。SNSは「クローズのコミュニケーション」といわれていますが、SNS上に書き込まれた情報は、簡単に「コピー&ペースト(コピペ)」ができるため、オープンになることが当たり前と考えてよいでしょう。

なぜなら、興味を引く話題は、コピペによって拡散されるなど、情報を書きこんだ人の意図しない広がり方をすることも少なくありません。そのため、軽い気持ちで「会社への悪口」が、思いもよらないスピードで、拡散されてしまうことが少なくないのです。

上場企業、大企業など、世間の興味、関心の集まるような会社に勤めている従業員の方は、インターネットへの書込みに注意した方がよいでしょう。また、「うちの会社は中小企業だから大丈夫だろう」ということでもありません。書込み内容が「興味深く」世間に「気を引く内容」だと、メディアが食いつく場合があります。

また、ブログやフェイスブック等のSNSで個人でも簡単に情報や意見を発信できる時代となり、そのメリットも大きいのですが、デメリットも大きくなったのです。風評、誹謗中傷被害を引き起こした社員が在職中であれば、懲戒処分、解雇といった対応が可能です。しかし、既に退職済の場合には、ネット上の情報の削除請求、損害賠償請求などによって対応していくこととなります。

これに関する裁判があります。

A運送事件 東京地裁 平成14年9月2日

  • 社員Aは運送業務に従事していたが、無断欠勤3日、無断遅刻1回、二日酔いで運転できない日が1日あった
  • その後、冷蔵庫を壁にぶつけて配達先の壁紙を破損したこと等を理由に懲戒解雇された
  • 解雇されたAは、インターネット上のホームページ掲示板に「不当解雇」というスレッドを作成して以下を投稿した

→「業務は多忙で休日もほとんどなく」

→「毎日が忙しく平均3、4時間の睡眠時間」

→「税引き後、18万そこそこの給料で34万の請求・・・」

  • さらに、社長は2代目ボンボンである、奥さん(専務)はお嬢様で人を人とも思わない等、役員の悪ロを書き込んだ
  • 社長らは、これにより信用、名誉を毀損されたとして、Aに対し、損害賠償を請求して提訴した

そして、裁判所は以下の判断を下したのです。

  • 書き込みはネットの閲覧者に対し、理不尽な要求をした上、従わないときは解雇するような会社であり、役員も経営者として不適格であるかのような印象を与えるものである
  • その結果、社長らの名誉、信用、社会から受ける客観的評価が低下したことは明らかで、Aの行為は名誉毀損の不法行為に当たる
  • 会社の損害額を100万円、役員らの損害額を各30万円とする

事例の裁判からもわかるとおり、会社批判、経営陣批判に関して、名誉毀損やプライバシー侵害の成否が問題となる場合があります。在籍中の行為であれば、懲戒処分も検討されますが、退職・解雇後は不法行為を理由とする損害賠償請求、差し止め請求等の問題となります。

インターネットの発達により、個人でも、情報の伝達を短時間にかつ広範囲に行うことが可能になったことで、個別紛争の増加に拍車をかけることになっています。事例の裁判ではAは解雇通知により大きなショックを受け、愚痴をこぼすような軽い気持ちでスレッドを立ち上げたにすぎず、社長らの名誉を毀損する目的はなかったと弁明しています。インターネットがない時代ならば、友人に愚痴をこぼす程度で終わり、ビラを撒いたり、抗議文を送ったりということはなかったでしょう。つまり、手軽な情報伝達手段が発達したがゆえの事件なのです。しかし、判決でも、仮に軽い気持ちでも、それだけで名誉毀損の不法行為となってしまうのです。