長年勤めた契約社員に退職金は必要でしょうか?

皆さんの会社では、契約社員やパート社員はいらっしゃいますか?その人たちの雇用期間はどのようになっていますか?雇用契約の終了が明記された「有期契約」の従業員の方はいませんか?該当する従業員の方がいて、「何となく更新を重ねている」場合、仮に10年以上継続的に勤務されていて、退職される時に、「退職金」を支払いますか?
「同一労働同一賃金」が2021年4月から中小企業にも適用されました。これは、「同じ付加価値をもたらす人には、同一の賃金を支払うべき」という政策です。
契約社員やパートタイム労働者といった「雇用形態が違う」という理由だけで、不合理に低い労働条件を設定してはならないということです。ひと昔前までは、「社員だから」「アルバイトだから」で何となく暗黙の了解となっていた待遇差も、この適用が法制化され、適切な判断基準を元にその合理性が検討されることになりました。そこで、退職金について、「長期雇用者には退職金の支払いが必須」という考え方が出てきているのです。
これに関する裁判があります。

メトロコマース事件 最高裁 令和2年10月13日

  • 東京メトロの売店業務に従事していた正社員(無期契約社員)と契約社員との間の労働条件の相違が問題となったものである。
  • 原審は、退職金の法的性格について、賃金の後払いや功労報償など様ざまな性格があると判断した。
  • そして、第1審原告らが定年まで10年前後勤務していたことから、長年の勤務に対する功労報償の性格を有する部分に係る退職金すら一切支給しないことは不合理とした。
  • 正社員の退職金の4分の1相当額を損害として認めた。

そして、裁判は最高裁に行き、以下の判断となったのです。

  • 退職金の支給の有無の相違を不合理でないとした。

この裁判を詳しくみていきましょう。
退職金について、支給要件や支給内容等から、労務の対価の後払いと継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有すると判断されています。さらに、売店業務の正社員と契約社員との間では、職務の内容や配置の変更の範囲に相違があったと認められました。これは、売店業務の正社員は、少数であり、他の多数の正社員とも職務の内容や配置の変更の範囲を異にしており、いろいろな事情が異なるとした判断があったのです。そして、正社員への登用制度が設けられていたことを考慮し、正社員と契約社員との間の退職金の支給の有無の相違を不合理でないとしたのです。
この最高裁の判決は報道等でも取り上げられ、「契約社員に、退職金の支払いはしなくて良い」と紹介されたものもありました。しかし、10月13日に出た最高裁判決では「非正規には退職金を支給しなくてもいい」と言っているように見えますがこれはあくまで「この裁判に登場する企業と非正規」の場合だけです。すべてに当てはまるものではないと思ったほうがいいでしょう。というのも、13日の判決文のなかには、「正規と仕事の内容などに違いがないのであれば非正規も支給対象になり得る」との記載があったのです。
ボーナスや退職金の支給は正規のみが対象になっていることが多いですが、それは「優秀な正社員に長く働いてもらいたいから」という理由をよく聞きます。その理屈からすると、正規と非正規の仕事が同じで、かつ非正規でも長期間働いている方であれば、ボーナスや退職金の支給対象になる可能性があるということです。