虫食いのタイムカードの労働時間について

働き方改革の法改正で、残業規制が中小企業も含めて2020年4月から該当することとなります。法改正への対応については、各社で異なる様子が見られますが、法律はスタートしました。

最近では「改めて」労働時間についてのお問い合わせが多くあります。そこでよくあるお問い合わせが次になります。「タイムカードの打刻どおりに残業代を支払わなければならないのでしょうか?」会社は、必ずしも、タイムカードの打刻時間を、労働時間としなければいけないわけではありません。タイムカードの打刻どおりに残業代を支払わなければならないかどうかは、会社の労働時間管理で、どのように位置づけられているかにより決まります。法律上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいいます。そして、この時間にあたるか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものとされるか否かで決まります。だから、会社によっては、使用者の指揮命令下にない時間についてもタイムカードの記録がなされている場合があります。

ということは、法律上の労働時間の定義に照らすと、タイムカードの打刻時間が必ずしも労基法上の労働時間に該当することにはなりません。

参考となる裁判が以下です。

三好屋商店事件 東京地裁 昭和63年5月27日

  • 解雇された労働者が時間外労働についての割増賃金等を請求した

→タイムカードの打刻時間で請求を行った

そして、裁判所の判断は以下となりました。

  • 会社がタイムカードを打刻させるのは、出退勤を確認するもので、その時刻が始業や終業時刻よりも早かったり、遅かったりしても労働時間と推定することはできない
  • 「タイムカードの時間=労働時間」とするためには、会社がタイムカードで社員の労働時間を管理していた等の事情があることが必要

→労働時間の管理が比較的、緩やかであったので、打刻時刻と労働時間が一致していたとみなすことは無理がある

以上より、「タイムカードの時間は労働時間ではない」と判断されたのです。

そして、「虫食いのタイムカード」の場合の判断できる裁判がありました。

プロッズ事件 東京地裁 平成24年12月27日

  • Aはタイムカードの記録を超えて働き、記録がない日も出勤したと主張した
  • そして、割増賃金などを求め、裁判を起こした
  • タイムカードは虫食い状態の部分も多く、時間の推定が難しい

そして、裁判所は以下の判断をしました。

  • 使用者がタイムカードによって労働時間を記録、管理していた場合には、タイムカードに記録された時刻を基準に出勤の有無及び実労働時間を推定することが相当である
  • ただし、他により客観的かつ合理的な証拠が存在する場合には、当該証拠により出勤の有無及び実労働時間を認定することが相当である

この裁判を詳しくみていきましょう。

タイムカード等の記録よりも客観的かつ合理的な証拠がある場合、その証拠から労働時間を認定すると判断しました。そして、記録がない日の出勤は、その日最初にパソコンにデータを保存した時刻から2時間遡った時刻、退勤は最終のデータ保存時刻やメール送信時刻としたのです。

タイムカードが虫食いだったのですがパソコンのデータをもとに労働時間が認定されたのです。

事例の裁判は、労働時間の概念、使用者の労働時間の把握義務、実労働時間の認定方法に関する判例として参考となる部分が大きいです。

以上により、タイムカードの打刻どおりに労働時間として計算することとなるかどうかは、タイムカードが会社の労働時間管理においてどのように位置づけられているかにより決まるのです。

働き方改革法の成立によりタイムカード等の客観的記録による労働時間管理の重要性が増しています。これまでタイムカード等による労働時間管理を行っていなかった会社も、新たにタイムカード等による労働時間管理を行うことが想定されます。そして、タイムカード等による客観的記録を利用した時間管理がされている場合にはタイムカード等の打刻時間により、労働時間が認定されることとなります。