社名入り制服やカートを使用したら、労働者となるのでしょうか?

食事等のデリバリー需要が増え、街中ではお弁当を配送する大きなリュックサックを背負った、バイクや自転車を見かけます。この配送業でのドライバーとの契約を雇用契約(労働契約)ではなく、業務委託契約としてドライバーに稼働していただくというケースがあります。たとえば、配送のドライバーとの間で業務委託契約を結び、ドライバーが所有する車両を用いて配送を行ってもらうという運用は、軽運送業などで多く見られます。ドライバーとの間で雇用契約ではなく、業務委託契約が用いられているのは、会社が雇用契約よりも、人件費等の経費を抑えられることが理由になっていると思われます。

もっとも、いくら契約書の内容を業務委託契約としても、法的に雇用契約とされることがあります。それは、契約書のタイトルや内容を「業務委託契約」としても、ドライバーの稼働の実態によって雇用契約とされる場合があるのです。これは、法律の「労働者性」の問題なのです。契約内容や契約書のタイトルがいくら雇用契約以外のものであっても、実質的に「労働者」と判断される場合、雇用契約となるのです。つまり、契約書のタイトル等の形式では、稼働実態の実質を評価して雇用契約かどうかが判断されます。仮に、雇用契約と判断される場合は、労働法上の労働者との扱いを受けますので、残業代の支払いや社会保険料の支払いなどの労働法上の制約を受けることになります。

 この労働者性の判断は、

〇勤務時間

〇勤務場所等

〇会社が指揮監督しているか

〇報酬が給与とは異なる体系となっているか、

〇ドライバーに依頼を拒否する自由があるか

などを総合的に判断して決められます。

これに関連する裁判が以下です。

ロジクエスト事件 東京地裁 令和2年11月6日

  • Aは業務委託契約書を交わしたうえ、配送業務に従事していた。
  • Aは委託業務を遂行するに当たり、会社のエコキャリーバッグ、エコキャリーカート、ユニフォームを借り受け使用していた。
  • 会社またはAは契約の期間中でも1カ月前までに予告することにより契約を解除できる。
  • Aは会社から都度依頼を受けて荷物を指定場所に公共交通機関により配送をする業務を遂行していた。
  • 平成26年9月から会社等から依頼を受けた業務を遂行していない。
  • 会社はAとの委託業務契約を解除した。
  • Aは、自分は労働者であると主張し「不当解雇である」と損害賠償を求める訴訟を提起した。
  • 一審、簡易裁判所が請求を全部棄却する判決を言い渡したことを受け、これを不服としたAが控訴したのが本件です。

そして、地裁は以下の判断をしました。

  • 制服着用等の目的は円滑な業務遂行であり、労働者性を基礎付けるものとはいえない。
  • 受注するか諾否の自由があり、基本的な業務遂行方法も裁量を有するとしている。
  • 報酬は配送距離や件数から算出し、時間との結び付きは弱かった。
  • よって、労働者ではなく、不当解雇はなり得ないと判断した。

主な争点は、労働法を適用する前提となる労働者性を会社に認めることができるのかでした。裁判所は、次のとおりAの主張を排し、労働者性を否定しました。その理由は以下となっております。

  • 会社が「業務があれば発注する」こととなっており、Aには発注についての諾否の自由があるものと認められる。
  • Aは週3日働く旨のシフト表を提出し直さなければならなかったと主張するが、これを裏付ける証拠はない。
  • 業務の遂行に当たり、業務の性質上最低限必要な指示以外は、業務遂行方法は、裁量を有し自ら決定することができた。
  • Aは配送業務の遂行に社名やロゴが入ったエコキャリーバック、エコキャリーカート、ユニフォームを使用しているが、これは円滑な業務遂行を目的としたもので、労働者性とは関係ない。
  • 契約の料金は、配送距離に応じた単価に個々の件数を乗じて算出するもので、労務提供時間との結び付きは弱いものであるといえる。

上記のとおり、裁判所はAに労働者性は認められないと判示しました。

労働者性判断のポイントとなる評価項目や評価の仕方がどのようなものなのかを知るうえでとても参考になる事例です。

労基法上の労働者とは「使用者の指揮監督の下に労務を提供」「使用者から労務に対する対償としての報酬が支払われる者で、一般に使用従属性を有する者あるいは使用従属関係にある者」を言います。
使用従属関係があるかないかは、「諾否の自由の有無」、「業務の内容および遂行方法につき具体的指示を受けているか否か」、「勤務場所および勤務時間が指定され管理されているか否か」です。
また、報酬につき給与所得として源泉徴収がされているか否か、労働保険、厚生年金保険、健康保険の適用対象となっているか否かなど諸般の事情を総合考慮して判断されるべきとされています。そして、他の裁判でも同様の基準で判断されています。