宴会でのトラブルは会社の責任でしょうか?

例年、新年度の今の時期は歓送迎会等も含め、宴会が多かったです。コロナ禍でも、職場関連の宴会が行われるのもあるでしょう。そんな時に、トラブルが発生した場合、会社としては責任があるのでしょうか?

職場の懇親をはかるための宴会等で、全員参加のものであれば、会社の「使用者責任」が発生すると考えられます。しかし、1次会はともかく、2次会や3次会となった場合、会社の責任はどのようになるのでしょうか?

これに関する裁判があります。

フ―ディックスホールディングスほか事件 東京地裁 平成30年1月22日

  • 従業員Aは会社(飲食店経営)の忘年会の日に出勤では無かったが、従業員とアルバイト全員が忘年会に出席するので、自分も参加した(忘年会は店長の発案で、定年退職者と異動予定者の送別会も兼ねていた)。
  • 1次会が終わり、2次会のカラオケ店に「全員」で参加した。
  • 2次会の席で、同僚Bと業務の件で口論となり、AはBから暴行を受けた。
  • 他の従業員が2人を止め、その場は収まったが、加療約4週間を要する見込みと診断された(右助骨骨折、頸部打撲及び右肘打撲)。
  • その後、Aは会社を自己都合で退職し、Bと会社に対し、損害賠償を請求した。

そして、裁判所は以下の判断を下しました。

  • Bの暴行については、Aの主張通りとなった。
  • 忘年会は、全員参加しており、業務に密接な関連性があり、事業の執行につき行われた。
  • 2次会において、社員の暴力により行われたので、会社は使用者責任を負う。

この裁判を詳しくみていきましょう。ポイントとして、会社の「使用者責任」が問われたのですが、職場外の行為が「事業の執行に該当するか?」が争われました。

そして、その判断要素として以下が挙げられます。

  • 自由参加か否か
  • 自由参加でも職場の者がどの程度参加しているか
  • 懇親を図るなど、業務に資する目的があるか
  • 業務に関連した会話等がなされているか
  • 上下関係などの職場の地位を利用しているか

といった点が考慮されるのです。

事例の裁判は、従業員、アルバイト全員が参加しており、忘年会と定年退職者、異動者の送別会も兼ねていました。さらに、1次会、2次会に連続性もあり、Bの暴行は業務に関連したことが発端だったのです。よって、「事業の執行について」なされたと判断されたのです。会社としては、職場外での行為であっても「使用者責任」が認められることがあります。また、この事例のように、2次会でも判断要素に合致した場合は、使用者責任がついて回るのです。

コロナ禍で、人々は通常時とは異なり、制約をされた行動を余儀なくされました。

このような状況で、普段は起こり得ないことも発生するかもしれません。今回ご紹介した事例は、もしかしたら皆さんの会社でも、明日起こるかもしれません。従業員を雇うということは、大きな責任を背負って業務を行うことです。改めて、このことを意識しなおして、懇親会等の場面を見直すことも必要かもしれません。さらに、使用者責任が問われない場合もあります。

民法第715条第1項は、次のようになっています。

「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、または相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。」

民法第715条第1項

事業の監督について、強化する必要がある場合があるでしょう。具体的には、皆さんの会社でハラスメントの防止等が挙げられるでしょう。日ごろから、トラブル防止に向けた取り組みが必要なのです。