定年後の継続雇用を断ることはできますか?

平成25年4月に施行された高年法の改正により、継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みは廃止されました。これにより、会社が継続雇用の条件を設定して、クリアした従業員だけを再雇用することができなくなったのです。そして、希望者全員を対象とする制度とすることが義務付けられたのです。

同時に、高年法9条3項に基づく指針(平24・11・9厚労省告示560号)により以下となったのです。「継続雇用制度を導入している場合は、使用者は、定年到達者が就業規則に定める解雇事由または退職事由に該当する場合に限って継続雇用を拒否することができることとされた」これにより、継続雇用を会社側が拒否できるハードルは下がり、

就業規則の解雇事由に該当しない限り、再雇用しなければならなくなりました。この法改正で、実質は「誰でも再雇用しなければならない」となったのです。実際に、トヨタ自動車ほか事件(名古屋高裁 平成28年9月28日)は以下のように判断されました。「労使協定で定めた基準を満たさないため61歳以降の継続雇用が認められない従業員についても、60歳から61歳までの1年間は、その全員に対して継続雇用の機会を適正に与えるべきであって、提示した労働条件が実質的に継続雇用の機会を与えたとは認められない場合においては、当該事業者の対応は改正高年法の趣旨に明らかに反する」

このように、改正高年法のハードルは高いものとなり、再雇用が当たり前の時代とシフトしたのです。しかし、会社は、本当に誰でも再雇用をしなければならないのでしょうか?上記記載の高年法9条3項に基づく指針(平24・11・9厚労省告示560号)では、「使用者は、定年到達者が就業規則に定める解雇事由または退職事由に該当する場合に限って継続雇用を拒否する」となっています。この指針を理由に継続雇用を拒否することは可能なのです。

これに関する裁判があります。

  • Aは平成14年4月から1年契約更新で、NHK視聴者コールセンターにおいて視聴者対応を行うコミュニケーターとして会社に採用された。
  • 17回にわたり契約更新され、平成31年に無期労働契約への転換権を行使して、令和元年8月以降契約期間の定めのない労働者となった。
  • 60歳の定年となる同年末をもって退職とされ、Aの希望に反し継続雇用されなかった。
  • Aは、このことが実質的に高年齢者雇用安定法に反し、労働契約法18条の趣旨に反する雇止めであるとして、継続雇用を求めた。

そして、裁判所は以下の判断をしたのです。

  • 継続雇用拒否は妥当である。

Aの視聴者に対する電話対応には、会社が策定したルール及び就業規則違反が度々認められたのです。さらに、そのことを会社から指摘され繰り返し注意・指導を受けるも自己の対応の正当性を主張することに終始してこれを受け入れて改善しようとする意思が認められなかったのでした。 

そして、会社における評価が極めて低く、勤務状況が著しく不良で、引き続き従業員としての職責を果たし得ないこと等就業規則に定める解雇事由に該当していたのでした。よって、継続雇用しないことについて、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であるというほかはないと判断されました。

 この裁判の事例は、指針に従って、継続雇用拒否の事由が就業規則に定める解雇事由に該当し、継続雇用拒否が有効であると判断した数少ない事例です。しかし、明確になったのは「就業規則にある解雇事由に該当すれば、継続雇用拒否は可能である」ということです。そのためには、第一に「就業規則の解雇事由について、詳細にルールを決めておくこと」が重要なのです。