契約社員でも退職金は必要でしょうか?

働き方改革の目玉の施策として、「同一労働同一賃金」があります。
大企業は2020年4月からスタートしており、中小企業も今年の4月からスタートします。そこで、多くの会社が正社員と契約社員の処遇の差について、悩まれております。大企業は「契約社員を正社員に転換」等の話がありましたが、中小企業ではそう簡単な問題ではありません。経営資源に余裕もなく、また、コロナ禍の状況では、その対応に頭を抱えている経営者がとても多いのです。
この場合、業務が同じで責任も同じであれば、正社員と同様の処遇にしないといけません。しかし、責任や業務の範囲が異なる場合は、バランスを考えて、処遇を決めないといけません。しかし、詳細な部分がわからなく、特に退職金については「契約社員等で長期勤務者には支払わないといけない・・・」という話もありました。
今回、事例の裁判に挙げた「メトロコマース事件」で、高裁の判断で「退職金の支払い命令」がでたからです。そこで、最高裁の判決まで出たこの裁判をみていきましょう。

メトロコマース事件 最高裁 令和2年10月13日

  • 東京メトロの売店販売員たち4人が、同じ業務をしているのに、正社員と契約社員で賃金格差がありすぎるとして、裁判を起こした。
  • 同一労働、同一賃金を求めて、賃金格差分や慰謝料など合わせて4,560万円の支払いを求めて、東京地裁に提訴した。
  • 賃金格差は以下となっています。
    →基本給、賞与に格差
    →住宅手当、永年勤続褒章、退職金なし
    →早出残業手当の割増率が違う
  • 東京地裁は、正社員と契約社員との職務内容および人事異動の範囲が大きく異なる。
  • 早出残業手当以外の労働条件の相違は不合理ではない。
    →早出残業手当の支払いを命じた。

裁判は高裁に行き、退職金について争われた。
2審の東京高裁では、退職金について全く支給しないというのは不合理として勤続年数が10年前後に達する2名に正社員に支払う退職金の4分の1の支払いが命じられた。
そして、最高裁は以下の結論を出したのです。

  • 退職金の支払いがないことは不合理とまではいえない。


この裁判を詳しくみていきましょう。

第1審被告の正社員に対する退職金が有する複合的な性質やこれを支給する目的を踏まえて、契約社員の雇用は短期雇用を前提としていたものとはいえ無いとしたのです。いずれも10年前後の勤続期間を有していることを考えても、両者の間に退職金の支給の有無に労働条件の相違があることは、不合理であるとまで評価することができないとしたのです。

本件においては、契約社員においても正社員への登用制度が設けられていることが、大きく評価されていています。つまり、退職金等を受けるようになるためには「正社員への登用を目指しなさい」としているのです。もし、退職金について、問題となりそうな会社は、このような契約社員から正社員への正規の登用制度を設けることを検討すべきでしょう。


事例の裁判では契約社員に「退職金支払いは不要」となりました。
しかし、これは「この事件の結論」であって、すべてのケースに当てはまるということにはなりません。同じような業務を正社員と契約社員が行っていた場合、業務の範囲や責任の範囲に相違がなければ、もしかしたら、結論は異なっていたかもしれません。

今後の対策として、正社員、契約社員、パート社員等の処遇が異なる場合は「どこが違うのか」を考えて、それぞれに就業規則等のルールを設定することをおすすめします。