在宅勤務時の通勤手当は減額可能でしょうか?

新型コロナウイルス対策で在宅勤務が広がっています。大企業だけではなく、中小企業も「急いで」導入するケースが見られますが、その数はうなぎのぼりです。そして、在宅勤務の浸透で通勤手当を実費精算に切り替える会社が出てきたのです。

これは、定期代の代わりに出社した日数分だけを精算するもので、在宅勤務が増えれば通勤手当で支払っていた金額の負担が減るので、会社の負担が軽くなるということです。テレワークを中心とした在宅勤務は、大企業はもちろん、中小企業にも浸透しつつあり、新型コロナウイルス対策が過ぎた後でも、この流れは止められないでしょう。

こうなると、通勤手当をはじめとする制度を見直さないと、会社の運用に支障が出てきます。とはいえ、通勤手当一つとっても「単に実費精算でOK」とはならないのです。なぜなら、社員に支払われる交通費などの諸手当は、社会保険料を算出する報酬月額に含まれるからで、「賃金」の一部と位置付けられるのです。通勤手当が抑えられれば、給料全体が下がり、報酬月額が減り、社会保険料が下がる可能性もあります。そして、制度設計上では通勤手当が減ると将来の年金の受給額が減少することもありうるのです。

例えば、報酬月額が「31万円以上33万円未満」から「29万円以上31万円未満」へと等級が1つ下がったと仮定します。すると、日本年金機構によると、その後30年同じ条件が続くとすれば、将来の年金受給額は年額で約4万円少なくなると試算されるのです。

会社と自宅を往復するのに必要な費用は、法律上は「弁済の費用」にあたり、雇用契約上の債務者である社員が負担するものです。だから、会社は「通勤手当を支給しない」とすることもできるのです。ただし就業規則等で、金額や支給方法等の支給基準が決められている場合、通勤手当は「賃金」にあたります。そして、通勤手当の支給条件を変更するには、就業規則にどのような記載があるかをチェックする必要があります。

事例1

第〇条 通勤手当は、会社が認める経済的で合理的な通常の経路及び方法により通勤のため公共交通機関を利用している従業員に対し、月額○円までの範囲内において通勤定期券相当額を支給する。

このように規定されている場合は、通勤を伴わない在宅勤務でも、定期券相当額の支給をしなければいけません。

事例2

第〇条 通勤手当は、月額○円までの範囲内において、通勤に要する実費に相当する額を支給する。

このような規定では、通常勤務においても「通勤に要する実費」と規定しています。

従って、テレワーク勤務を行うにあたっては、規定の変更は必要ありません。実際に通勤でかかった費用に対し、通勤手当として支給すれば問題ありません。しかし、このような規定がある会社は少ないでしょう。どちらかといえば、事例1の条文で規定されている会社がほとんどと思われます。これだけだと、テレワーク勤務に対応できないので、以下の条文例を掲げました。

事例3

第〇条 通勤手当は、会社が認める経済的で合理的な通常の経路及び方法により通勤のため公共交通機関を利用している従業員に対し、月額○円までの範囲内において通勤定期券相当額を支給する。

前項にかかわらず、テレワーク勤務(「在宅勤務」及び「モバイル勤務」をいう。)の場合の通勤手当は出社した日の日数に応じて通勤に要する実費に相当する額を支給する。

このように、まずは就業規則の見直しを行いましょう。そして、従業員への説明を実施してください。条文を変えて、いきなり実費精算を行うとトラブルの元となります。就業規則の変更、従業員への説明を行って、テレワークの運用を始めてください。

労使トラブルは些細なことから起こります。ルールを徹底して、法的なプロセスを踏んで運用を開始しましょう。また、出社する人と在宅で働く人の間の不公平感をなくすために通勤手当の取扱い以外にも、機器代や光熱費の補償について公正な規則を定める必要がでてくるでしょう。