ジェンダー等に対応する必要があります

今、ダイバーシティ経営の必要性が声高に叫ばれています。多様な人材の活躍を支援し、より競争力を高めるため、大企業はさまざまな取り組みを展開しています。そして、LGBTをはじめとする性的マイノリティについて、実は身近な存在でもあるのです。株式会社 LGBT 総合研究所(博報堂DYグループ)研究所が、2019年4月から5月にかけて調査した「LGBT意識行動調査2019」の結果があります。全国20歳から69歳の個人42万8,036名、有効回答者が34万7,816名で、LGBT・性的少数者は全体の約10.0%という結果でした。性的マイノリティについて、「当社では関係ない・・・」と考えている経営者は多いと思われます。しかし、この数字を見ると、身近な問題かもしれません。

また、このような問題で「ジェンダー」という言葉があります。ジェンダー(gender)とは、生物学的な性別(sex)に対して、社会的・文化的につくられる性別のことを指します。世の中の男性と女性の役割の違いによって生まれる性別のことです。そして、ジェンダーにもとづく偏見や不平等が多いと言われています。最近では性的蔑視発言について世間的な風当たりは強く、東京オリンピックの組織委員会の会長が「女性蔑視発言」で、辞任することになったのは記憶に新しいでしょう。

このように、性に対する意識は世界的に変わってきていますし、少し昔の感覚で、男女差別の発言を行えば「立場を追われる」人も、多くなると考えられます。

これに関連する裁判があります。

Y交通事件 大阪地裁 令和2年7月20日

  • 性別は男性だが、性自認は女性であるタクシーの乗務員Aに対して、乗客からの苦情を受けた。
  • A乗務員が化粧をして乗務していることから乗客に違和感や不安感を与えた
  • 以上を理由として、会社はタクシーに乗務をさせないとした。
  • Aはこの措置につき、会社による就労拒否は会社の責めに帰すべき事由によるものとして、賃金の仮払いを求めた。

そして、裁判所は以下の判断を行ったのです。

  • 賃金の一部について、仮払いを認めた。

この裁判のポイントは、会社がAに対し、タクシーの乗務を拒否したか?です。就労拒否があるとした場合の会社の帰責性の有無についてです。
まず、就労拒否の有無について、乗客からの苦情を受けたので、実施した面談における会社担当者の「乗せるわけにはいかない」との発言や退職を示唆する発言等があったことが確認されたので、会社が乗務員Aに対して就労を拒否したものと判断したのです。

次に、会社に寄せられた苦情の内容について、乗務員Aは事実を否定しているところ、会社は苦情の内容について調査を行った形跡がなく、苦情の内容が真実か虚偽かを問わず、苦情を受けたことで、就労拒否したのです。苦情を受けた理由だけで、乗務拒否は正当な理由はないと判断しました。また、乗務員Aは、面談で、当時施していた化粧についても指摘されていました。なお、乗務員Aは性同一性障害と診断され、ホルモン療法を受けつつ、化粧をし、女性的な衣類を着用していたのです。つまり、Aは社会生活全般で女性として過ごしていました。面談時、会社担当者は乗務員Aが化粧をしていることが外見上判別できる点を指摘し、これが身だしなみ規定の違反であると捉えています。

しかし、化粧の許容される限度を指摘し、改善を求めたことは無く、一方的な判断となったのです。 労働も社会的に重要な活動の一つです。労働が会社の定める一定のルールの下に行われるものなので、同一性障害に対する理解を欠いた不寛容な対応には、もはや正当性はないとなっています。性同一性障害のみならず、性的少数者の働きやすい環境の整備に向けた対応が求められる昨今、会社は性的少数者に理解を深めなければならない時にきているのです。