この場合、労働者となるのでしょうか?

近頃、ウーバーイーツなどの食事の宅配サービスが注目されています。この配送員は、業務委託による契約とされていて、法的には労働者という位置づけではありません。しかし、この配送員について、労災保険を適用しようという動きもあり、その労働者性について、議論されております。

では、この労働者性について整理してみましょう。

まず、「使用」されているかどうかについては、以下の点が考えられています。

(1)仕事の依頼に対する諾否の自由があるか

仕事を受けるか、受けないかを自由に決めることができるかということです。

一般的な使用関係とは異なると思われますので、労働者性は弱くなります。

(2)指揮監督の有無

指揮命令や指示を受けずに自由に業務の遂行ができる場合、労働者性は弱くなります。

(3)勤務時間や場所の拘束があるか

これも(2)と同様です。

(4)他人による替えが効くか

替えが効くとなってしまいますと、一般的な使用関係(会社における労働者の配置)とは異なりますので、労働者性は弱くなります。

続いて、「賃金」性については、労務との対応関係が重要です。提供した労務の長さに応じて報酬が決まるような場合には、一般的な雇用関係と近いものとなります。そして、上記の要素のほか、下記の項目も要素として考慮されるのです。
①事業者性(機械をどちらが負担するか、作業に比較して報酬が高いかなど)
②専属性の程度(他社の業務が制約されているか)
③源泉徴収、社会保険料負担の有無

これらは労働者性を考える上で強い要素ではありませんが、補強要素と考えられます。

これに関する裁判があります。

Hプロジェクト事件 東京地裁 令和3年9月7日

Aの相続人であるXらが、Aとアイドル活動等に関する専属マネジメント契約等を締結していたB事務所に対し、Aは労働基準法上の労働者であると主張した事案である。

  • Aは、中学2年生の時、Bとの間で研修生契約を締結し、Bに所属するアイドルグループのメンバーとして活動していた。
  • Bは、農産物の生産、販売等をするとともに「農業アイドル」として活動するタレントの発掘、育成等に関する業務等を行う株式会社である。
  • Aは、Bとの間で、タレント専属契約を締結するまでの研修期間などを定めた研修生契約書を締結した。
  • Aは、契約に基づき、Bに対し、トレーナー代およびスタジオ代として月額2500円を支払い、レッスンを受けるなどした。
  • その後、専属マネジメント契約を締結し、この約には、就業時間や賃金に関する規定はなかった。
  • 契約には、Bの承認を得なければAは一切の芸能活動ができないこと、Aのタレント活動により生ずる全ての権利はBに帰属すること、Aの活動によりBから得られる報酬が定められていた。
  • Bは取引先等からイベント等の依頼を受けるとグループウエアに入力し、参加してもらいたいと考えたメンバーの予定にイベントを登録していた。
  • その後、当該メンバーは本システム上において活動への「参加」「不参加」を選択していた。
  • Bは地元の農業に直接関係するイベント等を指定オファーとして、グループのレギュラーメンバーには原則的参加を求めた。
  • システム上での参加の選択はBが行っていたが、学校の関係や体調の問題で参加が困難である場合等には不参加が認められており、Aも指定オファーに参加しなかったことがあった。
  • Aは販売応援活動に従事し、2000円ないし3000円を受け取り、その後、Aは死亡した。
  • Aの相続人らが、Aとアイドル活動等に関する専属マネジメント契約等を締結していたBに対し、Aは労働基準法上の労働者であると主張し裁判を起こした。

→Aが販売応援業務に対する対価として支払われた報酬額は、最低賃金法所定の最低賃金額を下回るとして、労働契約に基づく賃金請求権として、報酬額と最低賃金法所定の最低賃金額との差額等の支払いを求めた。

そして、裁判所は以下の判断をしたのです。

  • Aに諾否の自由があったことから労基法上の労働者ではないと判断した。

Aは、グループのイベントの9割程度に参加していたが、イベントへの参加は、Aが「参加」を選択して初めて義務付けられるものであり、「不参加」を選択したイベントへの参加を強制されることはなかった。また、契約にも就業時間に関する定めはなかったのです。

Aは、イベント等に参加するなどのタレント活動を行うか否かについて諾否の自由を有していたというべきであり、Bに従属して労務を提供していたとはいえず、労働基準法上の労働者であったと認めることはできないと判断されたのです。