業務命令違反で解雇が有効となる場合があります

皆さんの会社で、業務命令に従わない従業員への対応に、困っていませんか?会社の指示に従わず、無視し続けたり、業務拒否を続ける従業員を放置すると、他の従業員に示しがつかなくなります。しんどい仕事、やりたくない仕事を拒否する従業員が他にも出てきたら、会社の経営が成り立たなくなり場合もあります。

会社の規律を維持するためにも、正当な業務命令に従わない従業員に対しては、懲戒処分などしかるべき対応が必要です。しかし、一方で、業務命令違反を理由とする解雇については、解雇後に会社が従業員から訴えられて、裁判所で不当解雇と判断される場合も多いです。

〇平成30年4月13日東京地裁:業務命令違反を理由とする解雇が不当解雇とされ、

会社が約3,700万円の支払を命じられた

〇平成28年2月4日東京地裁:業務命令違反を理由とする解雇が不当解雇とされ、会社が約2,000万円の支払を命じられた

以上のように、不当解雇と判断されると、多額の支払い命令が出てきます。

しかし、これに臆することなく、些細な業務命令違反でも会社の主張が通った裁判があります。

シリコンパワージャパン事件 東京地裁 平成29年7月18日

  • Aはマーケティング部門の社員で、その後、Bが同部署の部長として採用され就任した。
  • しばらくして、Aは業務のメールにB宛てのCCを入れなくなった。
  • これに対し、社長のCは「BにCCを入れるよう」と指示を行った。
  • この指示に対しAは守らなかったため、Cは重ねて指示を出した。
  • それも守られないので、CはAに対し「業務命令として、BにCCを入れるように、これは命令です」として伝えた。
  • Aはこの命令も無視した。

→実際に部長のBがAのメール内容を把握していないため、2度手間の状況が発生した

→製品とパッケージの相違という問題が発生し、メールでの情報共有が出来ていないため、損害となった

  • Aがこれを改めなので、会社はAを解雇した。
  • Aは解雇の無効を主張して、裁判を起こした。

そして、裁判所は以下の判断を下しました。

  • 業務に関するメールのCCに必ず上司Bを入れるという指示は不合理ではない。

→業務の内容、進捗の確認のため必須である

  • AはCCに対し、Cからの「命令」を命令と思っていなかったと主張するも、Cからの指示には「これは命令です」と伝えていた。
  • 代表取締役社長を含めて従業員20名弱という小規模の会社では、解雇以外の手段をとることは困難と考えられる。
  • 解雇は有効である。

この裁判を詳しくみていきましょう。この事件は電子メールのCCに上司のメールアドレスを入れる決まりがあり、さらに、社長から指示、命令をしてもCCを入れずにメールを送信し続け、会社が実害を受けたものです。そして、やむなく解雇したのです。裁判の争点は解雇が「客観的、合理的理由に欠き、社会通念上相当である」と認められるか?認められないか?という点でした。単に「業務関連のメールには上司にもCCを入れる」ということですが、これができないと解雇になるということです。この事例では、CCを入れていないことで実害が発生しており、 会社としても社長から命令ということで、危機感があったのでしょう。

そして、裁判所は

  • 業務上の指示、命令違反を繰り返したAに対し、社長自らが命令等を行い、是正を試みている
  • Aは注意、命令されても様子をみるとし、指示等に全く従わなかった
  • Aに対し、指導や教育について、解雇するには不十分とは考えられない
  • 会社が従業員20人弱という小規模な会社であるので、解雇以外の手段は困難である。
  • 解雇を濫用したとは認められない。

と判断したのです。

 メールを使用するのに、CCを入れずに運用するという些細な事に感じたかもしれません。しかし、事例の裁判のように、繰り返し注意を行い、業務命令という事を伝えても、指示に従わなかったという事で、裁判で、解雇は有効と判断されたのです。

この事例から学ぶことは、「再三にわたり注意指導したにもかかわらず」という事実を立証できるように準備することが重要です。そして、このことが会社には求められているのです。