管理職に、残業手当は不要です?

社内で管理職としての地位にある社員でも、労働基準法上の「管理監督者」に当てはまらない場合があります。例えば、会社では「店長」を管理職と位置づけていても、実際に法律上の「管理監督者」の判断基準からみて、十分な権限もなく、相応の待遇がない場合は管理監督者には当たりません。この場合、残業手当を支払わないでよいということにはならないのです。

また、「管理監督者」であっても、労働基準法により保護される従業員に変わりはなく、労働時間の規定が適用されないからといって、何時間働いても構わないということではありません。よって、健康を害するような長時間労働をさせてはなりません。「管理監督者」については、肩書や職位ではなく、その従業員の立場や権限を鑑みて、判断する必要があるのです。法律上の「管理監督者」は労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者をいい、労働時間、休憩、休日の制限を受けません。「管理監督者」に当てはまるかどうかは、役職名ではなく、その職務内容、責任と権限、勤務態様等の実態によって判断します。社内で管理職とされていても、次に掲げる判断基準に基づき総合的に判断した結果、労働基準法上の「管理監督者」に該当しない場合もあります。その場合、労働基準法で定める労働時間等の規制を受け、時間外割増賃金や休日割増賃金の支払が必要となります。このように、法的に「管理監督者」として認められるには、ハードルがかなり高いのです。よって多くの裁判では、「管理監督者性が否定」されているものが多く、この判断は慎重に行わないといけません。

この管理監督者性が認められた裁判があります。

セントラルスポーツ事件 京都地裁 平成24年4月17日

  • 会社はスポーツクラブの運営等を業としていてた。
  • 社員Aは6つの店舗を統括するエリアマネージャー的な地位であった。
  • 会社は「エリアマネージャーは管理監督者である」として、残業代の支払いをしていなかった。
  • 社員Aは、退職後に「エリアマネージャーは管理監督者に当たらない」と主張した。
  • そして時間外手当、遅延損害金等について支払いを求め、訴訟をおこした。

そして、裁判所は以下の判断を下しました。

  • エリアマネージャーは「管理監督者」に当たるとし、社員Aの主張を退けた。

この裁判を詳しくみてみましょう。

管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理につき「経営者と一体的な立場にある者」をいいます。これは、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきとされています。具体的には、「職務内容が少なくともある部門全体の統括的な立場である」「部下に対する労務管理などの決定権などにつき一定の裁量権を有して部下に対する人事考課、機密事項に接している」「管理職手当など特別手当が支給され、待遇において時間外手当が支給されないことを十分に補っている」「自己の出退勤について自ら決定し得る権限がある」との要件を満たすことを要します。Aの権限をみると、職制上の地位およびエリアを統括するうえでの人事権、人事考課、労務管理、予算管理など必要な権限を有しています。そして、人事採用、人事考課、昇格には、相当程度の関与ができるのです。

さらに、担当エリアにおける予算案の作成権限などを有し、エリアを統括する地位にあることが認められています。Aは、労務管理、人事、人事考課などの機密事項に一定程度接しており、予算を含めこれらの事項について裁量を有していました。そして、遅刻・早退・欠勤によって賃金が控除されたことがありません。また、出退勤の時間を拘束されておらず、自己の裁量で自由に勤務していたと認定されたのです。エリアマネージャーは管理監督者に対する待遇として十分な待遇を受けていたと認定しされたのです。

今回の裁判では、裁判所は管理監督者性を以下の点で検証しました。

  • 部門全体の統括的な立場か
  • 人事権限を有しているか
  • 処遇について             
  • 自己の出退勤について             

つまり、一般の社員に比べ、かなり特別な存在である必要があります。管理監督者の取り扱いがある会社では、上記のポイントに対して注意が必要です。