第三者行為災害とは?交通事故時に労災は使える?

第三者行為災害とは、たとえば通勤中や営業中の交通事故などにおいて、一般的に事故の相手方の加害者が存在する災害です。第三者行為災害では、労災保険の当事者ではない相手方となる第三者が、損害賠償の義務を負うことになります。

しかし、第三者行為災害の範囲や被害者への補償に関するルールなどについて、よくわからない方もいるでしょう。そこで、第三者行為災害でまず知っておくべき事項について解説します。労災保険における「第三者」とは、該当する災害に関する労災保険の当事者(政府・事業主・労災保険受給権者)以外の人を指します。

一般的に、「第三者行為災害」となる災害には次のものがあります。

「第三者行為災害の例」

  • 交通事故
  • 業務に起因して他人から暴行を受けた場合

ここで、業務起因の暴行に関して説明をしておきます。たとえば、電車の駅員などが乗客に注意したことで暴行を受けてしまった場合、駅員が職務上の義務として注意をした結果、乗客による暴行を誘発したと考えられます。その場合は業務上で起こった第三者行為災害となります。

 一方、同じく業務中に起こった暴行でも、従業員同士のケンカなどが原因の場合は第三者行為災害となりません。それは故意により起きるものであり、業務に起因した災害とはみなされないからです。

以上のように、第三者行為災害は業務に起因して意図せず起こった災害を指し、労災保険の当事者以外の加害者が「第三者」となります。

そして、第三者行為災害に該当する災害が発生した場合、被災者は「加害者となる第三者に対する損害賠償請求権」と「労災保険の給付請求権」の両方を取得することになります。そうなると、損害賠償金と労災保険給付の二重取りとなり、実際の損害額より多くのお金が被災者に支払われる不合理が起こります。

そのため、国は労働者災害補償保険法第12条の4で第三者行為災害における労災保険給付と民事損害賠償との支払い調整について、保険給付が重複しないようルールを定めています。先に民事損害賠償が行われた場合、労災保険で支払われる金額より民事損害賠償で支払われた金額を差し引いて給付する「支給調整」が行われます。なお、「特別支給金」や、保険給付の対象外となる費用(慰謝料、自動車修理代等)は、支給調整の対象とはなりません。

自動車事故で第三者行為災害に遭遇した際、「自賠責保険との調整を行う場合」と「示談を行う場合」については特に注意が必要です。自動車事故では、自賠責保険等の保険金を先に受ける「自賠先行」と、労災保険を先に給付する「労災先行」のどちらかを選ぶことになります。「自賠先行」では、労災保険と同一事由の損害項目について、自賠責保険等からの支払いが完了するまで労災保険からの給付が行われない場合があります。「労災先行」では、自賠責保険等と同一事由の損害項目について、自賠責保険等からの支払いを受けることができません。上記のどちらにするかは被災者が自由に選べますが、それぞれ補償の範囲が違うため、事前に双方の補償内容を確認したうえで選ぶ必要があります。

 また、示談が成立し、被災者等が示談内容以外の労災保険の損害賠償請求権を放棄した場合、政府は原則として労災保険給付を行わないことになっています。そのため、『労災保険から給付されるから、示談に応じよう!』などと自己判断での示談は危険です。示談を行うにあたっては、事前に労働局または労働基準監督署に相談しましょう。