みなし労働時間制について

みなし労働時間制は、実際に働いた時間にかかわらず事前に決められた労働時間を働いたとみなす制度です。みなし労働時間制の適用対象としては、営業職など事業場外で業務することが多く正確な労働時間の算出が難しい場合や、専門性が高い仕事で労働者に時間管理を任せた方が高いパフォーマンスが期待できる場合が想定されています。しかし、この制度にはいくつかのトラブルや問題点があります。

まず、労働時間の過重です。みなし労働時間制では、一定の労働時間内での業務完了を前提としているため、実際にはそれを超える労働が発生することがあります。労働者が長時間労働を強いられる可能性があります。

次に残業代の未支給についてです。みなし労働時間制では、超過した労働時間に対して残業代が支払われないことがあります。実際の労働時間を考慮せず、一定の枠内での支給となるため、実際の労働量との乖離が問題となることがあります。

さらに、労働者の負担増加です。長時間の労働や残業代の未支給により、労働者の負担が増加し、過重労働や健康被害を招く可能性があります。

そして、適切な管理の難しさについてです。みなし労働時間制では、労働時間の管理が簡略化されるため、実態との乖離や労働時間の適正な把握が難しいことがあります。これにより、労働基準法の違反や紛争の発生が起こりやすくなる場合があります。

これらの問題点やトラブルが労働者と企業の間で発生する可能性があります。労働時間の適切な管理や労働者の権利保護が重要とされています。

みなし労働時間制は、労働時間を一定の基準で設定する制度です。日本では労働基準法に基づいて、労働時間や休憩時間などが規定されています。そして、適法と違法の境界線は、以下のような点に注意されます。

みなし労働時間制の運用について

まずは、労働時間の範囲についてです。労働基準法では1日8時間、週40時間が基本ですが、企業によってはこれを超えない範囲で特例的にみなし労働時間制を導入することが認められています。

次に労働時間の計測についてです。実際の労働時間を正確に記録し、それに基づいてみなし労働時間制を適用することが求められます。

さらに、労働者の同意と合意です。労働者はみなし労働時間制について事前に説明を受け、同意した上で適用される必要があります。

そして、みなし労働時間制の違法となる場合をみてみましょう。

まず、時間外労働の強制についてです。労働時間が法定の範囲を超えて時間外労働が強制され、かつそれがみなし労働時間制の下で認められていない場合、違法となります。

また、適正な給与の支払いもあります。労働時間に応じた適切な賃金や割増賃金が支払われない場合も違法です。

さらに、休憩時間の確保の状況です。法定の休憩時間が十分に確保されていない場合も、違法とされることがあります。

みなし労働時間制は、労働者の権利と適正な労働環境を保つため、法定の規定に基づいた適切な運用が求められます。企業がこの制度を導入する際には、法令を遵守し、労働者との誠実なコミュニケーションを重視することが重要です。

また、最近の勤怠管理はクラウドシステムを用いて、在宅や外出先でもシステムにログインして、管理が行えるようになっています。

これに関する裁判があります。

セルトリオン・ヘルスケア・ジャパン事件(東京高裁 令和4年11月16日)

この裁判の争点は「事業場外労働みなし制の「労働時間を算定し難い」ときに当たるか否か」ということでした。

 本件システムの導入後(平成30年12月)は、MRについて、一律に事業場外労働のみなし制の適用を受けないものとしました。そして、始業時刻から終業時刻までの間に行った業務の内容や休憩時間を管理することができるようなったのです。さらに、日報の提出を求めたり、週報の様式を改定したりすることが可能となったのです。

仮に、MRが打刻した始業時刻及び終業時刻の正確性やその間の労働実態などに疑問があるときには、貸与したスマートフォンを用いて、業務の遂行状況について、随時、上司に報告させ、上司から確認することも可能であったと考えられたのです。

よって、労働時間を算定し難いときに当たるとはいえない。と判断されたのです。

このように「みなし労働時間制」は勤怠管理について、ある意味「ゆるい管理」であったのですが、クラウドでの勤怠管理システムの利用などで、少し前まではみなし労働時間制が使用できたと思われる働き方でも、現在はクラウド管理ができれば、認められないと思われるケースも増えるのではないかと考えられます。