従業員の働き方として、変形労働時間制が注目されています。変形労働時間制とは、労働時間を月単位(注)で調整することにより、残業代の支払いを抑えることができる働き方です。
(注)週単位、年単位の場合もあるが、今回は割愛。
繁忙期などに労働時間が増加しても、閑散期の労働時間を減らすことにより、残業代の調整をすることが可能となるのです。
通常、法定労働時間は1日8時間、週40時間となっています。忙しい週、暇な週が隔週ごとに発生する場合で考えてみましょう。たとえば、必要な労働時間を第1週:48時間、第2週:32時間、第3週:48時間、第4週:32時間とします。この月で見た場合、週平均の労働時間は40時間です。 このように、繁忙期・閑散期のある業界・職種は、変形労働時間制で週平均40時間の労働時間とすることにより、「残業代を適法に抑制」できるのです。
しかし、いい加減な定めや運用だと、法的に認められません。
これに関する裁判があります。
ダイレックス事件 長崎地裁 令和3年2月26日
- 就業規則には「1ヶ月単位の変形労働時間制」「労働時間は月平均で1週間40時間とする」「事前に稼働計画表により通知する」「みなし残業30時間の定めは記載されていない」(変形労働時間制の場合、みなし残業の定めはそもそも不可なので、この定めが無いのは当然)という内容が定められていた。
- 実際の稼働計画表による労働時間は「1ヶ月の所定労働時間+30時間のみなし残業」となっており、変形労働時間制であるにも関わらず、実質的に、みなし残業の定めがされていた。
- 従業員Aは「残業時間込みの設定はおかしい」と主張し、未払割増賃金を求めて裁判を起こした。
そして、裁判所は以下の判断を下したのです。
- 会社の定める変形労働時間制は無効である。
- 未払いの残業代を支払え。
この裁判を詳しくみていきましょう。
変形労働時間制が有効となるには、「1か月の平均労働時間が1週間40時間以内」でなければなりません。しかし、会社の稼働計画表では、「Aの労働時間=1か月の所定労働時間+30時間のみなし残業時間」と定められていたのです。「本来の1ヶ月の所定労働時間:約170時間」「実際のAの1か月の労働時間:200時間超」となっていたのです。「最初から残業時間を見込んでの変形労働時間制=NG」という当然の判断が下されたのです。
1ヶ月単位の変形労働時間制が有効になるには、以下の要件を守らないといけません。
- 労使協定、または、就業規則などで定める必要がある
- 所定労働時間は1ヶ月ごとに考える
- 1週間当たりの平均労働時間が40時間を超えてはいけない
- 日ごと、週ごとで考え、それぞれの労働時間が定められている
1ヶ月単位の変形労働時間制を採用したつもりでも、これらの要件を【すべて】満たしていなければ、法的には変形労働時間制には該当せず、1日8時間を超える時間はすべて残業となってしまうのです。ただし、現実的には、日ごと、週ごとの労働時間をすべて、事前に就業規則などで定めておくことは困難です。そこで、行政通達(昭63・3・14基発150号)は「該当する月の前日までに決めて通知すればOK」となっている訳です。
参考までに、原文を載せます。
「業務の実態から月ごとに勤務割を作成する必要がある場合には、就業規則において各直勤務の始業終業時刻、各直勤務の組合せの考え方、勤務割表の作成手続及び周知方法等を定めておき、それにしたがって各日ごとの勤務割は、変形期間の開始前までに具体的に特定することで足りる。」
もし、皆さんの会社が既に変形労働時間制を採用している(つもり)ならば、「みなし残業が加算されていないか?」「毎月の前日までに、具体的な労働時間が定められているか?」を確認しましょう。