通勤手当は割増賃金の計算に加味されるのか?

給料が支払われる場合、会社等から交通費などの「通勤手当」が給付されます。この通勤手当は、「残業代などの割増賃金の計算基礎から除外される」と規定されています(労働基準法37条5項)。

しかし、名目が「通勤手当」であれば、「何でも残業手当などに加味してなくてもOK」ではありません。まず、通勤手当は「実費弁償的な要素が強く、賃金ではない」という考え方になります。しかし、通勤手当であっても、「就業規則や労働契約などで支払額や支払基準が明確に定められている場合」は、「労働の対価」(=賃金)となります。では、賃金に当たる通勤手当は割増賃金の計算上、加味しなければならないのでしょうか?

結論を最初に書いてしまいますが、賃金に該当する通勤手当は

〇割増賃金の計算上、加味しなければならないもの

〇割増賃金の計算上、除外されるもの

に分かれます。

ここで、用語の整理をしておきます。

(1) 実費弁証的な通勤手当:賃金に該当しない

(2) 賃金となる通勤手当:割増賃金の計算上、加味しなければならないもの

(3) 賃金となる通勤手当:割増賃金の計算上、除外されるもの

の3つがあるということです。

ここで、(3)の「除外される通勤手当(賃金)」とは、「労働者が職場まで通勤する距離に応じて定められる金銭あるいはその交通費実費をいう」とされています。

つまり、「通勤の距離」「定期代などの金額」に応じて決められるものでなければなりません。そうでないと「除外される賃金」とはならないということです。

たとえば、

〇定期代が2万円かかるAさん:2万円

〇定期代が1万円かかるBさん:1万円

〇交通費がかからないCさん:支給しない

というように通勤距離や交通費の金額によって異なる金額が支払われる通勤手当は「除外される賃金」に当たります。

このように、通勤手当と割増賃金に関する考え方は、通勤手当の運用によって大きく変わります。また、「そんなことは外部からは、わからないだろう」と思っても、労働基準監督署が検察に送検した事例もあるのです。

「労働新聞」(2022年6月2日)

〇安城交通(タクシー業)と同社取締役総務部長が書類送検された。

〇通勤手当として支給していた金額は実際の通勤距離や費用と関係ないので、割増賃金の対象

〇同社は労働者1人に割増賃金の一部を支払わなかった疑い

〇他の労働者についても誤った方法で割増賃金を計算していた可能性あり

このように、通勤手当と割増賃金の関係について、厳しく問われることがあるのです。特に悪質と認められると、上記のように送検される可能性も高くなるのです。

皆さんの会社が送検まではされなくても、労働基準監督署の調査で問題になる可能性はあるのです。この点は十分に覚えておいてくださいね。それから、コロナ禍に急速に普及したテレワークに関し、「通勤しないから、通勤手当をカットしてもいいですか?」というご相談をお受けすることがあります。この場合、「通勤手当が就業規則でどのように定義され、支給されているのか」がポイントとなります。日々の通勤費の実費弁償であれば、ルール化することで減額、支給停止が可能です。ただし、強引に行うのはトラブルの種となりますので、これを実施する場合は、社員によく説明する必要があります。

また、実費弁償の記載がない場合は就業規則そのものの変更を行って、説明会などを実施し、移行することになるのです。この辺りは「テレワークで通勤不要なんだから、当然だろう」と考えるのではなく、適正なステップを踏んでいくことが大切なのです。