先日、お客様からこんなご相談がありました。「社員から退職届が出てきたのですが、退職日の記載がありません。この場合、有効な書類となるのでしょうか?」退職についての書類の有効性については悩むことが多いです。なぜならば、退職は感情的な問題もはらんでいるからです。
問題がある退職の場合、退職日の特定も厳しい状況ですし、その後の対応に苦慮するケースが多いのです。では、法的な側面をみてみましょう。労働基準法、労働契約法では、契約の成立や終了は「労使の自由な意思」によることを前提にしています。だから、退職についても社員の真の意思によることが重要です。
民法では、
〇期間を定めない労働契約の場合
〇当事者※の解約申入れから2週間で解約できる
としています。
また、労働契約の解約には『使用者(会社)による「解雇」』『労働者による「退職」』が明確に区別されます。特に、労働契約法では使用者による解雇は、「合理的な理由」と「社会的な相当性」がなければ、権利濫用として無効であると規定されています。会社側が解雇を行うのは、一定レベルの不祥事がある場合などを除き、かなり難しいものとなります。
ここで問題となるのが、労働者から退職届が出された場合、「合意退職の申し込みなのか?」「辞職なのか?」が不明確な場合があるということです。
この「意思表示が不明確な場合」、合意退職の申し込みと解釈されることが多いです。逆に言えば、「意思表示が明確な場合」は、「辞職」と解釈されることになる訳です。
では、「合意退職」と「辞職」で争われた事例をみてみましょう。
日東電工事件 広島地裁福山支部 令和3年12月23日
〇Aは雇用期間の途中で、部長に「退職願」を2通提出した。
- 2通ともAの署名・押印あり
- 2通とも「退職したくご許可下さい」という旨が記載
〇1通
- 退職日の記載がなかった。
- 作成日付欄に日付が手書き
- 事由欄に「一身上の都合による」と手書き
〇もう1通
- 退職日の記載あり
- 事由欄は「別紙のとおり」と手書き
- 「退職理由(事由)」と題する別紙が添付(作成日付欄は空欄)
〇Aの主張
- 退職願の1通に退職日の記載がないので、退職の意思表示がされたとは言えない。
- 後日、部長などの管理職と話し合いをした際、合意退職の申込みを撤回した。
- 雇用は継続している。
〇会社の主張
労働契約は終了している。
そして、裁判所は次の判断をしたのです。
- Aから提出された内容は「退職の意思表示」である。
- Aは退職希望日が記載されてないことを主張するが、「退職の意思表示=労働契約を終了させる意思の表示」でOK
〇会社と従業員Aの契約:有期雇用契約
→ 辞職=労働者の一方的な意思表示による労働契約の解約」このように、裁判所は会社の主張を認めたのです。「辞職」ならば、「会社に到達した時点」で「労働契約の解約告知(=辞職)」としての効力を生じるのです。そして、これを撤回することはできないのです。この裁判の場合、各退職願の記載内容からすれば、「撤回の余地のない辞職の意思表示」と判断されたのです。これは退職日の記載が無くても、意思表示が認められるということです。従業員の意思表示から2週間経過したら有効になり、撤回はできないということです。
退職申出の撤回に関する相談やトラブルは、とても多いです。上記の「合意退職」の申込みの場合ならば、会社の承諾があるまでは「従業員は撤回が可能」です。しかし、事例の裁判のように、上記の「辞職」の場合は「従業員は撤回できない」のです。そこで、「合意退職の申出なのか?」「辞職なのか?」を確認する必要があるでしょう。