解雇や退職勧奨のご相談が私どもの現場でも増えています。退職勧奨については法律のアクションというより、「退職のお願い」ということになります。まずは、このことを念頭に退職勧奨を進めて下さい。そして、経営側はこのことを理解して、行動に移さないといけませんが、従業員にとっては「会社がいらないと言っている」ということで、感情的にはインパクトのあるものとなります。
それから、退職勧奨を実施しますが、退職を拒否されたら、その後の対応はどのようにすれば良いのでしょうか?
これに関する裁判があります。
日立製作所事件 横浜地裁 令和2年3月24日
- Aは総合電機メーカーでソフトウェアの業務に従事してきた
- 会社がAに対し「違法な退職勧奨およびパワーハラスメントを受けた」と主張した
- そして、Aは会社に対して不法行為に基づいた慰謝料100万円等を求めた裁判を起こした
→慰謝料の請求と共に「無効な査定で賃金減額された」と主張し、正当な査定の金額の場合との差額の賃金および賞与等の支払いも求めた
そして、裁判所は以下の判断を下したのです。
- 会社側は「自尊心損ねる発言」を行った
- 会社は上司の言動について、使用者責任を負うということで、慰謝料20万円支の払いを命じた
この判決のポイントは以下となります。
退職勧奨は、その事柄の性質上、多かれ少なかれ、従業員が退職の意思表示をすることに向けられた、説得の要素を伴うものです。よって、一旦退職に応じない旨を示した従業員に対しても説得を続けること自体は直ちに禁止されるものではありません。その際に、会社から従業員の能力に対する評価や、引き続き在職した場合の処遇の見通し等について言及することも問題はありません。それが従業員にとって好ましくないものであったとしても、直ちには退職勧奨の違法性を裏付けるものではないでしょう。しかし、事例の裁判では、部長による退職の勧奨は、Aが明確に退職を拒否した後も、複数回の面談の場で行われています。そして、各面談における勧奨の態様自体も相当程度執拗である上、証拠上、確たる裏付けがあるとはうかがわれないのに、他の部署による受入れの可能性が低いことをほのめかしたのです。さらに、退職以外の選択肢についていわば八方塞がりの状況にあるかのような印象を、現実以上に抱かせるものだったのです。また、Aの上司は、業務の水準が劣る旨を指摘したにとどまらず、執拗にその旨の発言を繰り返した上、能力がないのに高額の賃金の支払を受けているなどと、Aの自尊心を傷付ける言動に及んでだのです。以上の事情を総合考慮すれば、上司の退職勧奨は、Aの意思を不当に抑圧して精神的苦痛を与えるものです。そして、社会通念上相当と認められる範囲を逸脱した違法な退職勧奨であると認めるのが相当であり、不法行為が成立するのです。また、退職勧奨は業務執行に関してなされたものといえるから、会社は使用者責任を負うことになるのです(慰謝料20万円)。
一般論として、説得の継続は必ずしも禁止されるものではなく、その際当該社員の評価や今後の処遇の見通しを告げることは直ちに違法ではありません。しかし、社員の意思を不当に抑圧して精神的苦痛を与える言動は不法行為になるのです。
退職勧奨を実施し、結果が会社側にとって思いもよらない方向になった場合は、感情に任せず、一度冷静になって対処しましょう。具体的には「退職勧奨はあくまでもお願いしている」ということを再度、理解しましょう。そして、退職しない場合、「会社に残るデメリットを客観的」に伝えましょう。さらに、金銭面の補償や再就職の手伝い等、従業員が受け入れられない不安の解消を図り、受け入れが容易になるように進めましょう。