賃金から控除する場合の注意

先日、以下のご相談がありました。「共済会を設けようと話合いを進めています。当社は10人未満で就業規則は作成していませんが、労使協定のみで共済会費の賃金控除は可能なのでしょうか」というものでした。

労働基準法第24条で賃金支払いの5原則が定められており、その1つに全額払いの原則があります。これは、賃金の一部を控除して支払うことを禁止するもので、「控除」とは、履行期の到来している賃金債権についてその一部を差し引いて支払わないことをいうとされています。

そして、この例外として賃金控除が認められているのは、法令に定めがある場合と、過半数労働組合(ない場合は過半数代表者)と労使協定を締結した場合となっているのです。前者は、税金、労働保険料や社会保険料などです。後者は、購買代金、社宅、寮その他の福利、厚生施設の費用、社内預金、組合費等、事理明白なものについてのみで、労働基準法第36条1項の時間外労働と同様の労使の協定によって賃金から控除することを認める趣旨であることとしています。また、労使協定の様式は任意としつつも、少なくとも、「控除の対象となる具体的な項目」、「各項目別に定める控除を行う賃金支払日」を記載するよう指導することとしています。

次に就業規則は、常時10人以上の労働者を使用する事業場で作成が必須になります(法89条)。10人未満なら不要ですが、厚労省は作成が望ましいとしています。10人未満で就業規則がない場合でも、賃金控除の労使協定を締結(労基署への届出は不要)し、労働者から同意を得れば、控除は可能といえます。労使協定は、本来は労基法違反となる行為をしても違反しないという免罰効果のみを発生させるため、賃金控除も締結により、全額払い違反として罰則を適用されたり、強行法規違反として違反無効とされることがなくなります。

ただし、このことは免罰効果のみのため、労働契約上控除が適法かどうかは別問題とされています。賃金控除が適法となるためには、労働協約または就業規則に控除の根拠規定を設けるか(労組法16条、労契法7、10条)、対象労働者の同意(同法8条)を得る必要があるとしています。これは、時間外労働をさせるには、36協定の締結と届出に加えて、命じるための就業規則などにおける根拠が求められることと同じといえます。

なお、例えば労働基準法91条の減給は、条文に「就業規則で減給の制裁を定める場合」と、就業規則の規定を求めています。一方、賃金控除は条文に就業規則という文言がないことから、後者の同意でもできるようになるといえるでしょう。

やはり、賃金の控除を確定的に運用するのであれば、10人未満でも就業規則等を整えて、運用することをおすすめします。その方が誤解される部分が少なくなるからです。賃金に関することは、支払う側が考えるよりももらう側の考えはかなり繊細となっています。ルール化し、正確な運用を行うことが無用なトラブルを未然に防止することとなるのです。

因みに労働基準監督署に届出が必要な労使協定は以下となります。

  • 労働者の貯蓄金の管理に関する労使協定
  • 1ヶ月単位の変形労働時間制に関する労使協定*
  • 1年単位の変形労働時間制に関する労使協定
  • 1週間単位の非定型的変形労働時間制に関する労使協定
  • 時間外労働、休日労働に関する労使協定(36協定)
  • 事業所外労働のみなし労働時間制に関する労使協定
  • 専門業務型裁量労働制に関する労使協定

そして、届出が不要な労使協定は以下です。

  • 賃金から法定控除以外の控除を行う場合
  • フレックスタイム制に関する労使協定(清算期間が1ヶ月を超えない場合)
  • 休憩の一斉付与の例外
  • 年次有給休暇の時間単位での付与
  • 年次有給休暇の計画的付与
  • 年次有給休暇の賃金を標準報酬日額で支払う場合
  • 育児休業、看護休暇及び介護休業が出来ない者の範囲

労使協定では労働に関する様々な取り決めがなされており、適切な内容の協定を結び、労働基準監督署への届出を忘れないようにしましょう。