精神疾患の疑いのある社員がいる場合、多くの会社は「果たして本当に病気なのか?」で悩むケースが多いです。
具体的な事例として以下があります。
- 勤怠状況が不良で、再三注意しても改善されない。
- 感情的になり、コミュニケーションができない。
- 不適切な発言ばかりで、業務にならない
等があります。
早々に医療機関に受診して、病名等が明確なら会社としても素早い対応が取れるでしょう。しかし、多くのケースは「当人が受診を拒む」などの話が多く、対応に苦慮している会社が多いです。ただし、「業務に影響が出ている場合は、受診命令等は必須」と考えられます。明らかに、「労務の提供が不完全」であれば、その原因を明白にすることは今後の対応に影響するからです。
そして、多くのケースでは「休業」を命じて、様子をみることとなります。ただし、「休業」を命じて様子をみないと、次の対応に進めないのでしょうか?例えば、「休業命令に応じないので、解雇を検討したい」というご相談をいただいたケースもあります。
ケースバイケースですが、休業命令の装置をとらずに解雇が有効となった裁判があります。
ビックカメラ事件 令和元年8月1日
- 正社員として入社したAは売場、レジで販売員として勤務していた
- 勤務について、無断で早退をする、長時間にわたり、売場を離れる等の状況であった
- 上司に対して中傷的な発言をする
- インカムを用いて不適切な発言を行う
- 会社はAのこうした言動に対し、その都度注意し、職場改善指導書を交付した
- その後、改善されないので譴責の懲戒処分を実施した
- さらに、改善されないので出勤停止処分を行った
- それでもだめだったので降格を実施したが、Aの態度は改善されず、会社は解雇を実施した
- これに対して、Aは「解雇は無効」と主張して、裁判を起こした
そして、裁判所は以下の判断を行ったのです。
- 解雇は有効と判断された(会社の主張が通った)
この裁判を詳しくみていきましょう。
問題行動を繰り返す社員に精神疾患の疑いがある場合、何らの措置(受診命令、休職等)を行わずに解雇を実施したら、解雇無効と判断された判例もあります(日本ヒューレット・パッカード事件 最高裁 平成24年4月27日)。
今回の裁判は、Aに対して産業医との面談を行わせ、精神科を受診させ、就業規則に基づき通院加療を命じています。よって、会社は相応の配慮を払っていると、裁判では判断されたのです。そして、休職命令について、就業規則に「1か月超の欠勤が必要」であり、Aはこの条件に該当しなかったのです。さらに、受診の結果からも、Aの精神疾患が問題行動に与えた影響は明らかにならなかったのです。会社がAに対して、「休職を命じるべき事情は認められない」と判断されたのです。上記のことから、会社の主張が採用され、Aの主張は通らなかったのです。
多くの場合、精神疾患の疑いがある社員への対応は、繊細な部位もあり、対応に迷うことがあります。ただ、疑いのある社員に対しては、産業医への面談、専門医への受診をおこなってもらうことは必須です。その後、症状に合わせて「休職」等の選択肢を選ぶか否かでしょうが、これは、医師と情報を共有し、会社で判断することとなります。
精神疾患等に関して、医師の意見等で迷う場合が多いです。その際に必要ならば、セカンドオピニオン、サードオピニオンの意見を聞いて、会社としての判断を下すことが大切です。