精神疾患と残業時間の関係について

「会社でつらいことがあって精神的に参ってしまった・・・。」このような社員は多かれ少なかれ、どこの会社でも存在します。しかし、程度が悪化し、精神疾患となり、勤怠に影響するようになったら、会社として早期に対策を講じなければならないでしょう。

うつ病などの精神疾患の場合、発症前の残業時間との関連性が大きく関係します。発症の1ヶ月前に残業時間が160時間、3週間前に120時間あると労災と認定される可能性が高くなります。また、発症前2ヶ月連続で120時間、3ヶ月連続で100時間の残業がある場合も、関連性が高くなります。その後、働き方改革関連法で法改正があり、残業時間の規制が始まり100時間以上の残業があった場合は、即罰則ということになったのです。

では、今回の法改正を復習しましょう。まず、残業時間ですが、月45時間、年360時間という時間外労働の上限が、大臣告示から法律へと格上げされました。特別の事情がなければこれを超えることは違法となり、罰則が科されます。特別の事情があって、特別条項付きの36協定に労働者と使用者が合意する場合でも、以下のルールを全て守らなければならなくなりました。

  • 時間外労働が年720時間以内
  • 1年を通して常に時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
  • 1年を通して常に時間外労働と休日労働の合計について、「2か月平均~6か月平均」が全て1月当たり80時間以内
  • 時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6か月が限度

また、使用者はたとえ36協定の範囲内で労働者を働かせる場合であっても、労働者に対する安全配慮義務を負うことを理解しなければなりません。過去の裁判等でも1か月80時間を超える残業が認められれば、労災認定の可能性が高くなるものが多くありました。

ただ、この基準を下回っていれば大丈夫ということでもありません。

これに関する裁判があります。

青森三菱ふそう自動車販売事件 仙台高裁 令和2年1月28日

  • 社員Aはうつ病を発症して自殺した
  • 一審は請求を棄却した
  • 労働基準監督署は一審後に、適応障害と労災認定した

その後、遺族は控訴し、判断は以下となったのです。

  • 二審は労災認定を不合理ということはできないと判断
  • 発症後に決算月があり長時間労働が続いたと推認した
  • その間先輩の叱責に過敏に反応して自殺した
  • 一審を覆し、賠償等を命じた(約7,360万円)

この裁判のポイントは残業時間の時間数のみではなく、総合的な判断を行っています。Aが適応障害を発症して自殺を図るに至ったことについては、所長及び上司が、業務上の役割、地位の変化及び仕事量、質の変化について、心理的負荷に配慮すべきであったと判断されます。実際、Aの過重な長時間労働の実態を知ったのに、これを軽減しなかったことが要因です。さらに、「会社は使用者責任に基づき、Aの遺族らに対し、Aの死亡につき同人及び遺族が被った損害を賠償すべき責任がある」と判断されたのです。

うつ病などの精神障害の業務起因性について、事例では、労働者の置かれた具体的状況を踏まえ検討されています。業務による心理的負荷が、社会通念上あるいは客観的にみて、精神障害を発症させる程度に過重といえることが必要です。

会社の対策として、まずは「状況が変わった」社員の情報をキャッチしましょう。そして、対応を考えるのです。事例のように多額の損害賠償ということにもなるかもしれません。だから、もう一度この点を見直してみましょう。