〇仕事による強いストレスでうつ病を発症した
〇上司のパワハラを毎日受け、うつ病を発症し仕事ができなくなった
このような仕事が原因と見られる精神障害のご相談を度々お受けします。そして、多くの会社が悩む点は「精神的な病は、本当に業務が原因か?」という事です。実際に、精神疾患は労災認定を受けることが難しいと言われています。その原因は、仕事が原因による発症であることを証明する必要があるためです。客観的な根拠と事実に基づき、医学的な観点を含め慎重な判断が求められるので、調査にも時間がかかり、認定されにくい状況にあるのです。
『厚生労働省は、平成23年12月26日 基発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(最終改正:令和2年8月21日 基発0821第4号)』
という基準を設けています。この中で、精神疾患の労災認定は次のように記載されています。
「精神障害は、外部からのストレス(仕事のストレスや私生活でのストレス)とそのストレスへの個人の対応力の強さとの関係で発病に至ると考えられています。発病した精神障害が労災認定されるのは、その発病が仕事による強いストレスによるものと判断できる場合に限ります。」
このポイントは、「その仕事が仕事による強いストレスによるものと判断できる場合に限る」と明記している点です。この点を証明できるかが労災認定の鍵となるのです。ただし、仕事によるストレスが強いケースでも、同時にプライベートで大きな問題を抱えているかもしれません。
例えば、
〇私生活の面で家族と揉め事を抱えている
〇借金問題で心身に負担を抱えている
〇病気やアルコール依存症などを抱えている
などです。
このような場合、私生活のストレスが原因で発症した可能性も否定できなくなります。精神障害発病が仕事によるものなのか、医学の面からも慎重な判断が求められます。こうしたケースにおける判定が難しい点も、労災認定を厳しくしているのです。そして、精神障害に関する労災認定要件は、次の3つの条件があります。
(1)認定基準の対象となる精神障害を発病していること
(2)認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
(3)業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと
この中で(2)の要件がケースバイケースで、あやふやな部分があります。しかし、精神障害が発症するおおよそ6か月前から発症するまでの間、仕事で精神的な苦痛や負担の事実関係を確認し、その内容が認定されることです。
そして、精神的な苦痛や負担については、内容により「強」「中」「弱」の三段階に評価を行います。「強」と評価された場合、「業務による強い心理的負荷」があったと認められます。では、「強」ではなくて「中」や「弱」がたくさんあった場合は、どうなるのでしょうか?
これに関する裁判があります。
和歌山労基署長事件 和歌山地裁 令和3年4月23日
- Aは先輩の幼稚園教諭から、いじめ、嫌がらせ、無視等を受けたため、うつ病を発症した。
- そして、Aは休職を余儀なくされた。
- Aは労働基準監督署に「業務が原因で休業した」として、休業補償給付の支給を請求した。
- 和歌山労働基準監督署長(処分行政庁)は不支給処分をした。
- Aは処分の取消を求めて裁判を起こした。
そして、裁判所は以下の判断を下したのです。
- 本件は対象疾病である中等症うつ病を発症したと認定した。
- そのため、発症6ヶ月前の出来事も含め、心理的負荷を評価し、Aの請求を認めた。
この裁判を詳しくみていきましょう。
まず、精神障害の原因ですが、判断は以下としています。厚労省労基局長通達「心理的負荷による精神障害の認定基準の改正について」の中の基準で判断されています。これによると、要因については「単独で心理的負荷の強度が強いものがあったともいえない」としています。しかし、要因となる出来事は、いずれも共通の人間関係の中で連続して起きたもので、発症前6ヶ月を超えるものも含めて総合的に判断されたのです。
これらの出来事は単体としては、「中」ないし「弱」でした。しかし、全体として一つのあるいは一連の出来事と捉えて共通の人間関係の中で生じた出来事を総合的に評価し精神的負荷を「強」と判断したのです。ハラスメントからの労災認定で、6ヶ月間の出来事を総合的な視点で、判断していくこととなるでしょう。そして、一連の出来事として総合的に捉えることが可能かは、これからの精神障害の業務起因性を考える場合に重要な要因となるでしょう。ハラスメントの程度の問題で、継続して発生することが、問題を大きくしていくということがはっきりした事例でした。
会社としては、日常の中でハラスメントが埋もれないように、注意をすることが重要となります。その為には、相談窓口の運用を形骸化せず、身近なものとして気軽に利用できるものとすることが傷口を最小限にとどめる方法なのです。