皆さんの会社で、パソコンにチャットアプリを導入して業務を行っているところはありませんか?チャットアプリでは、同時に複数人とのメッセージのやり取りも気軽にでき、案件ごとにタスクを管理できるなど、情報共有に優れています。円滑なコミュニケーションを図るためにも、今では欠かせないツールとして多くの会社で活用されています。
しかし、チャットアプリが導入されたことで、困っていることが発生しています。それは、仕事中に私的なチャットを繰り返している社員がいることです。
そこで、職場での私的チャットはどこまで許されるのでしょうか?仮に、社員のチャットがエスカレートして、業務がおろそかになるなどして、支障が出るようになってしまったら……。しかし、このようなケースでは上司もこの状況に全く気付いていない場合が多いです。だから注意などはありません。
私たちは職場で、仕事の合間に天気や趣味の話、あるいはメディアで話題のニュースなど、雑談を交えながら仕事をしています。こうしたやり取りは、社員間でコミュニケーションを良好にするもので、問題に当たるとは言えません。
同じように、チャットでそうした雑談のやり取りが多少あったとしても、直ちに不適切とは言えないでしょう。但し、問題は、その頻度や長さ、内容などです。労働契約の締結に際しては、社員に職務専念義務が課せられています。業務中は職務に専念する必要があることから私的行為はいけないとされていますが、気分転換にお茶を飲んだり、息抜きをしたりすることなどはよくあることです。一体どこまでの私的行為がNGで職務専念義務違反に当たるのか、なかなか分かりにくいものです。
これについて、参考になる裁判例として、過度の私的なチャットを理由になされた懲戒解雇の有効性が争点になったものがあります。
ドリームエクスチェンジ事件 東京地裁 平成28年12月28日
この裁判では「チャットの時間、頻度、上司や同僚の利用状況、事前の注意指導及び処分歴の有無等に照らして、社会通念上相当な範囲と言えるものについては職務専念義務に反しない」としています。
- 会社は、移動体通信事業等を業務とする会社である。
- 社員Aは、平成25年2月1日付で被告に雇用され、同年5月1日から管理本部経理課長に昇格して経理・総務業務を担当していた。
- 従業員は社内での業務連絡のため、常時パソコンでチャットを利用する運用としていた。
- Aは、平成25年11月18日から平成26年6月20日までの約7カ月間、業務中、合計5万158回のチャットを行っていた。
→その内容は、経理課長の職にあり、顧客情報の持出という就業規則に違反する行為を防止する立場であるが、社員Bに顧客情報データを社外に持ち出すように指示したものであった。
- Aは「確実に潰れるから」などと発言し会社の信用を棄損した。
- 直属の部下であるCについて誹謗中傷するもの、女性社員2人について性的な誹謗中傷を行うものというものであった。
- 会社は、これらのチャットを理由に、平成26年7月8日付でAを懲戒解雇した。
- Aは、解雇の無効等を求め訴訟提起した。
そして、裁判所は以下の判断をしました。
- チャットは、単なるチャットの私的利用にとどまらず、その内容は、就業規則(服務心得)に反し、職場秩序を乱すものと認められる。
- Aがこれまで懲戒処分を受けたことがないこと、謝罪の言葉を述べていたことなどの事情を十分踏まえても、解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当である。
この事件では、約7カ月間で合計5万158回の私的チャットが行われていました。チャット1回当たりに要した時間を1分として計算すれば、概算で1日当たり350回以上、時間にして2時間程度のチャットが行われていたことになります。さらに、チャット内容も就業に関する規律に反するものだったため、「チャットの相手方が社内の他の従業員であること、これまで上司から特段の注意や指導を受けていなかったことを踏まえても、社会通念上、社内で許される私語の範囲を逸脱したものと言わざるを得ない」とし、懲戒解雇を有効としました。
1日数回程度の私的なやり取りの場合、職務専念義務違反とまでは捉えられないでしょう。だからといって、会社から貸与されたパソコンで就業中に私的メールやチャットを日常的に行うことは、通常は控えるべきでしょう。