先日、顧問先からご質問がありました。それは、「私どもの会社では、泊まり込みで働く従業員がいます。そして、泊り込みの時は一定時間の仮眠時間を取りますが、この仮眠時間については賃金を支払わなくても良いでしょうか?」というものでした。この仮眠時間について、賃金を支払わなくても良いでしょうか?
確かに、仮眠時間ということで業務を行っているわけではありません。だから、仮眠時間中に業務対応をする必要がなければ賃金を支払わなくても良いということです。
しかし、業務対応をする必要がないとは、たまたま何もしなくても良いということではなく、電話が鳴っても出なくて良いということを指します。そして、業務から解放された状態でないといけないのです。
では、なぜ仮眠時間としているのでしょうか?業務を行わない時間は休憩時間です。それを休憩時間ではなく「仮眠時間」ということは仮に眠る時間という意味なのではないでしょうか?つまり、何かあれば対応する必要があるということであれば、仮に寝ていても、起床して業務に就かないといけないでしょう。そういう場合には、仮眠時間を含めて、一定の賃金を支払わなければなりません。
労働時間とは、会社の指揮命令下に置かれた時間をいいます。警備員や病院の当直医などは仮眠を取っている最中でも緊急事態が起これば起きなければなりません。この状況が会社の指揮命令下に置かれた時間と言えるかが争われた裁判があります。
大星ビル管理事件 最高裁 平成14年2月28日
- ビル管理会社の従業員らは,仮眠時間を与えられていました。
- 仮眠時間中は,配属先のビルからの外出を原則として禁止され,仮眠室における在室や、電話、警報の対応等が義務付けられていました。
- ビル管理会社は、仮眠時間について労働時間に算入しておらず、泊り勤務手当を支給するのみでした。
- ただ、残業申請をすれば実作業時間に対して時間外労働手当及び深夜就業手当が支給されていたのです。
- 従業員らは、仮眠時間について、時間外勤務手当、深夜就業手当、深夜割増賃金の支払を請求しました。
第1審は労働者の請求認容,控訴審は第1審を一部変更
そして、最高裁は以下の判断をしました。
- 実作業に従事していない仮眠時間(以下「不活動仮眠時間」という。)が労基法上の労働時間に該当するか否かは,労働者が不活動仮眠時間において,使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まる。
- 本件仮眠時間は全体として労働からの解放が保障されているとはいえず,労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価することができる。
- 本件仮眠時間が労基法上の労働時間と評価される以上,ビル管理会社は,本件仮眠時間について,労基法13条,37条に基づいて時間外割増賃金,深夜割増賃金を支払う義務がある。
つまり、「この会社の警備を行う従業員の仮眠時間は労働時間である」と判断したのです。
ただし、この裁判で、不活動仮眠時間については賃金規程や労働協約で泊まり勤務手当を支給するとしていること、不活動仮眠時間は緊急事態があれば起きなければならないという労働密度が高くない時間であることを踏まえると、労働契約上の賃金ではなく泊まり勤務手当が発生するものとしました。
警備員の業務について、ビルの巡回をして不審者、ドアの開閉、火災のチェックをすることで、不活動仮眠時間はまさに何も起こらなければ寝ていれば良いのです。最高裁は「労働密度が高くない」という理由を付けています。最高裁は加えて、不活動仮眠時間も労働時間であるからそれに対して時間外割増賃金と深夜割増賃金を支払う義務があるとしました。