先日、以下のご相談をお受けしました。「業務に必要な知識を得るための勉強時間は、労働時間となってしまうのでしょうか?」。実は、類似のご相談は数多くあります。そこで、整理の為に「労働時間の定義」について、考えてみましょう。
労働基準法は32条で労働時間について規定しています。
しかし、法律上、「労働時間」について定義をしていません。そのため、最高裁判所の判例等を参考にすることとなりますが、判例は、労働基準法32条の「労働時間」を以下のように述べています。
「労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。
最高裁 平成12年3月9日 三菱重工長崎造船所事件
そして、厚生労働省も労働時間に関するガイドラインを策定して、労働時間の考え方について上記判例と同様の考え方となっています。
労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる。
厚生労働省・労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(平成29年1月20日策定)
労働時間に該当するか否かは、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんによらず、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであること。また、客観的に見て使用者の指揮命令下に置かれていると評価されるかどうかは、労働者の行為が使用者から義務づけられ、又はこれを余儀なくされていた等の状況の有無等から、個別具体的に判断されるものであること。例えば、参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間は労働時間に該当すること。
研修については、「使用者が実施する教育に参加することについて、就業規則上の制裁等の不利益取扱いによる出席の強制がなく自由参加のものであれば、時間外労働にはならない」との行政解釈が示されています。これは、昭和26年1月20日基収2875号からのものです。古い行政解釈ですが、今でも有効と考えられています。
仮に、レポート提出などの課題を出された場合には、労働時間に該当すると判断される場合があります。ちなみに、法令に基づく研修や職場の規律などに関する研修等については、労働時間に該当するといえます。
しかし、自己啓発の一つとして会社が勧めている学習の時間について、学習の状況が社内のシステムで把握されていたとしても、社員に対し自己研鑽するためのツールを提供して推奨しているだけです。この場合は業務の指示とみることはできず、「労働時間に当たらない」とした裁判例もあります(大阪高裁 平22年11月19日判決)。
このように、「推奨」というレベルであれば、それに応じて従業員が研修に参加したとしても労働時間には当たらない可能性が高いといえます。しかし、名目上「推奨」であっても、実態は人事査定でマイナス評価を受ける場合や上司が学習状況について注意をするような場合等は、労働時間に該当する可能性があります。