時季変更権が認められる時

働き方改革やワーク・ライフ・バランスがいわれる今日、お休みが取りやすくなってという会社も多くなりました。

しかし、企業や職場によっては、有給休暇が取得しにくい雰囲気も窺われます。

有給休暇は労働者の権利であり、いざトラブルになると、裁判所は有給休暇を手厚く保護しているのです。

まず、労働者から有給休暇の取得の申出があれば、使用者の許可や承認がなくとも、当然に休暇が成立するとされています。これは裁判で判決に書かれていました(最高裁 昭48年3月2日)。

一方、会社側にも時季変更権があり(労基法39条5項)、有給休暇の取得により事業の正常な運営が妨げられる場合には、時季変更権を行使して休暇を別の日に変更することが可能であるとなっています。

しかし、「繁忙期である」「人手が足りない」というだけで簡単に時季変更権行使ができるわけではなく、会社は、労働者ができるだけ指定した時季に休暇を取れるよう、状況に応じた配慮をする必要があるのです。

これに関する裁判があります。

阪神電気鉄道事件(大阪地裁 令和4年12月15日

〇Aは車掌として勤務割に基づく勤務をしていた。

〇平成30年8月19日、1カ月先の9月19日について年次有給休暇(以下「年休」)の時季指定をし、これに対してYが時季変更権を行使したにもかかわらず、同日出勤せず1日分の賃金を減給され、翌20日に欠勤を理由とする注意指導を受けた。

→19日にはAより前に年休申請して認められた者が7人、研修等で勤務振替等が必要となる者も5人おり、その合計が12人に達していて、予備要員等の上限に達していた。

〇Aは、時季変更が違法であると主張して、

・減給された賃金

・労基法114条に基づく付加金、

・違法な時季変更権の行使を前提とする注意指導につき不法行為による慰謝料50万円および各遅延損害金の各支払いを求めて提訴した。

そして、裁判所は以下の判断をしました。

〇時季変更は適法である。

→会社側の主張が認められた。

では、判決のポイントをみてみましょう。

 勤務割で会社が配慮をしなかった結果、代替勤務者が配置されなかったときは、必要配置人員を欠くことをもって事業の正常な運営を妨げる場合に当たるということはできないとの判断があります(最高裁 昭和62年7月10日)。

 通常の配慮をすれば代替勤務者を確保することが客観的に可能な状況にあったか否かについては、

  • 年休の時季指定に伴う勤務割の変更がどのような方法により、
  • どの程度行われていたか、
  • 年休の時季指定に対し使用者が従前どのような対応の仕方をしてきたか、
  • 労働者の作業の内容、性質、欠務補充要員の作業の繁閑などからみて、
  • 他の者による代替勤務が可能であったか、

また、

  • 年休の時季指定が、使用者が代替勤務者を確保しうるだけの時間的余裕のある時期にされたものであるか、
  • 当該事業場において週休制がどのように運用されてきたか

などの諸点を考慮して判断されるべきと考えらえます。

 会社が通常の配慮をしたとしても代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況になかったと判断できる場合には、会社側が何らかの具体的行為をしなかったとしても、時季変更権の行使が違法となることはないとの判例もあります(最高裁 平元年7月4日)。

事例の裁判については、列車所においては、勤務割(勤務実施表)の作成の基本となる乗務循環表及び作成に関する基準が、いずれも労使間の協議を経て定められています。

これらに基づき有給休暇が取得されてきたのです。なお、Aの平成28年~30年の年休の取得率は96%~97%、平成30年度に時季変更権を行使されたのは4.7%であり、年休を申請するとおおむね取得できる状況にあったのです。

Aは、勤務割の中に代替勤務者を確保していたところ、取得希望日は、Aに先行して年休申請した車掌や社内行事のために勤務できない車掌がおり、Aに年休を付与すると、確保していた代替勤務者を超える補充要員が必要となってしまう状況だったのです。

つまり、補充人員を確保できない状況にあったのです。これらの事情に照らすと、使用者が通常の配慮をしたとしても、Aの代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況にはなかったと判断されました。

単に「忙しい」「代替者がいない」だけで、時季変更権が法的に認められるのは厳しそうですが、日頃から、希望に沿った年休取得ができるような体制や環境づくりをしている職場は時季変更権が認められる可能性が高いのです。