会社が事業を円滑に運用するためには、企業秩序を守る必要があります。そのため、会社は企業秩序を維持する権限を持っています。そして、従業員は労働契約を締結して雇用されることで、企業秩序を遵守する義務を負うとなっているのです。つまり、社員は会社のルールを守らなければならないという事です。もし、ルールを守らない社員等がいたら、懲戒処分を実施することがあるのです。懲戒処分とは、従業員の企業秩序違反に対する制裁として、処分を実施することを言います。
懲戒処分の基準を明らかにするために、以下のルールがあります。
- 平等取扱い
- 適正手続き
- 合理性・相当性
もし、懲戒処分にこれらのルールが適用されなければ、職権濫用や不公平な処分等により、恣意的な処分が行われ、従業員にとって不利益が生じるおそれがあります。そのため、懲戒処分は上記の基準を意識することが重要です。特に、「平等な取扱い」について、同じような非違行為については、同程度の懲戒処分を下さなければならないというルールです。平等な取扱いを意識して、「嫌いだから重くする」などの主観的な要素で、公平性がなくなれば、懲戒処分そのものがいい加減になってしまうからです。だから、考慮すべき事由を慎重に精査する必要があります。
例えば、1万円を横領した従業員(地位や在籍年数なども同等)が、2人いたときに「どちらも1万円を返却した」場合には、片方を懲戒解雇として、もう片方を戒告にするなどは明らかに不平等です。このような処分を行ってはなりません。
これに関する裁判があります。
日本郵便事件 札幌高裁 令和3年11月17日
〇職員Aは、出張費の不正受給を理由に懲戒解雇された。
〇Aは、「処分は相当性を欠き無効」として、会社に地位確認などを求め、裁判を起こした。
〇第1審は、Aの請求を棄却し、解雇を認めた。
〇裁判は控訴となった。
そして、高裁は次の判断をしたのです。
〇一審の判決を変更し、解雇を無効と認定した。
〇会社に未払い賃金など約1800万円の支払いを命じた。
なぜこのような判断となったのかをみてみましょう。Aが不正受給した現金は出張先での郵便局社員との懇親会など、「業務の延長」で使用されていました。さらに、Aと同じようなポストにあった複数の社員が、同様の不正を繰り返すなど会社の事務にずさんな面があったと指摘されました。そして、Aに対し、悪質性が顕著とはいえず「解雇は懲戒権の乱用」と判断されたのです。
もし、皆さんの会社で懲戒処分を検討しなければならないケースがあったら、次のことを意識しましょう。「特別な理由もないのに、人によって、あるいは社内の地位によって、処分の重さを変えたり」、「先例に反した決定をしてはいけません」。企業秩序違反行為の種類や程度、その他の事情に照らして、他の事例や過去のものと比べても平等な取扱いが求められます。すなわち、同じ規定で、同じ程度に違反した場合には、これに対する懲戒は同一種類、同一程度とされなければならないのです。そのためには、懲戒の記録は必ず残しておいて、平等取り扱いの原則から、照会できるようにしておくことが必要です。また、「前例より重い処分を行う」場合、なぜ重い処分となるのかを、客観的なデータを押さえて、明確に重い理由を説明できるように準備をしておくことが重要となるのです。
仮に、感情で「このケースはひどいから重い処分だ」としても、重い事由が客観的に表現できなければ、事例の裁判のように、処分そのものが「無効」となってしまうのです。
例えば、「懲戒解雇」の処分として、裁判等で「処分無効」となったら、処分そのものを課すことができなくなるのです。
つまり、無効になったら、処分が何もできなくなってしまうのです。
だから、このような状況に陥らないように注意が必要なのです。よって、このプロセスは慎重に進めて、冷静な判断で行わないといけないのです。