2013年に高年齢者雇用安定法が改正されて、定年を迎えた高齢者の雇用が様々な会社等で進められています。そして、最近問題となっている人材不足や労働者の流動性を考えると、経験者を定年後もそのまま雇用することは、人材の活用という点でメリットは大きいと考えられます。
しかし、一方で再雇用した従業員から不満の声も上がっているという調査結果もあります。定年後再雇用制度の場合には、新しい雇用形態で労働契約を結ぶため、賃金についても最低賃金などの雇用に関するルールの範囲内で社員との間で決めることができます。定年前と同じ業務内容であっても、体力の低下などにより仕事の効率が下がることは避けられないため、定年退職時の賃金の50%~70%程度に設定されるのが一般的です。賃金の決定に関する評価基準がある場合は、それに照らし合わせて減額するとよいでしょう。
ただし、同一労働同一賃金の関係上、同じ業務で同じ時間の仕事の場合、責任の度合いが同じであれば、減額して再雇用契約を結んだとしても無効となる可能性が高くなります。
そして、この件について、多くの会社が頭を抱えています。「金額をどのぐらい減額していいのか?」「定年後再雇用について、同一労働同一賃金に抵触したくないし、かといって、現役時代と同じ給与というわけにもいかない・・・。」
これに関する裁判があります。
名古屋自動車学校事件 名古屋地裁 令和2年10月28日
- 会社は自動車学校の経営等を行っていて、Aらは教習指導員(正職員)として勤務していた。
- Aらは定年(60歳)退職後、継続雇用制度に基づき嘱託職員(有期契約労働者)となり、引き続き教習指導員として勤務していた。
- だが、主任職を退任したほか、定年前後で職務内容や配置の変更の範囲に相違はなかった。
- Aらの定年退職時の基本給は月額18万円または16万円であったが、嘱託社員時の基本給は8万円または7万円(定年退職時と比較して45%以下)であった。
→若年正職員(勤続年数1~5年)の基本給平均額(月額11万円~)を下回っていた。 - Aらの嘱託社員時の総支給額(一時金を除く)は正職員定年退職時の労働条件で就労した場合の56%にとどまった。
- 正職員には基本給に正職員一律の調整率を乗じ、勤務評定分を加算した額の賞与(夏季・年末)が支給されていた。
- しかし、嘱託社員には嘱託社員一時金が支給され、Aらは4万~10万円であった。
- そして、定年退職時の基本給の60%の金額に正職員一律の調整率を乗じた金額(13万~17万円)に満たない。
- Aらは正職員定年退職時と嘱託職員時の基本給等の相違について旧労契法20条に違反するとして会社対し不法行為に基づく損害賠償金等の支払いを求めた。
そして、裁判所は以下の判断を下したのです。
- 定年時の基本給の6割を下回る部分を違法としました。
- 基本給がベースの賞与(一時金)も差額支払いを命じたのです。
この裁判を詳しくみてみましょう。
Aらの正職員定年退職時の賃金は平均賃金を下回る水準であり、Aらの嘱託職員時の基本給は若年正職員の基本給をも下回るばかりか、賃金の総額が退職時の60%前後にとどまるのであった。これは、労使関係で調整された結果が反映されたものではなく、Aらが退職金を受給しており、要件によっては高年齢雇用継続基本給付金及び老齢厚生年金)の支給を受けられるのです。
しかし、上記を鑑みても、嘱託職員時の基本給が正職員定年退職時の基本給の60%を下回る限度で不合理と認められると判断されたのです。
これについても、労使関係で調整された結果が反映されたものでもなかったのです。よって、各季の正職員の賞与の調整率を乗じた結果を下回る限度で不合理と認められると判断したのです。この判決が出た直後、「6割を下回れば違法と判断される」と報道もされました。しかし、個別の事情もあると考えられます。特に、労使関係での調整がポイントといえるでしょう。