「定年後の再雇用では、定年前よりも基本給が減額され、各種手当てや賞与も一部カットされたり、まったく支給されなかったりという例が数多くみられます。再雇用における給与の減額は法的に許されるのでしょうか。また仮に許されるとしても、認められる給与の減額率に限度はないのでしょうか」
上記のようなご相談がたくさんあります。また、働き方改革関連法で「同一労働同一賃金」の考え方により、その判断基準が「わからない」というご相談が多数あります。「法律が施行されて、なんとなく減額してみたもの、本来は違法になるのでしょうか?」というお話も多数あります。この件は、減額幅の問題だけでなく、減額に対する考え方、従業員への説明責任など、様々な要素から考えなければなりません。そんな中、最高裁の判断が下された裁判があります。
- 定年退職後の再雇用で基本給や賞与が引き下げられたのは不当だとして、名古屋自動車学校(名古屋市)の元社員の男性2人が差額分の支払いなどを求めた
- 裁判は最高裁まで行き、その結果が出たのです。
- 最高裁は基本給が正社員の60%を下回るのは違法とした二審名古屋高裁判決を破棄し、審理を同高裁に差し戻したのです。
- 嘱託職員の基本給は「正社員とは異なる性質や支給目的がある」とし、詳細に検討すべきだとの判断を示した。
この事件は、定年退職後の再雇用の際に、基本給や賞与が大きく引き下げられた従業員が、その待遇が現役正社員と比較して不合理な差別だ、と主張して訴えた事件です。いわゆる同一労働同一賃金の問題です。Aらは、定年後再雇用として会社と嘱託職員の有期労働契約を締結して教習指導員として勤務していました。しかし、正職員(無期労働契約)との間における基本給、賞与等の相違は(改正前)労働契約法20条に違反するものであったと主張して損害賠償を請求して提訴したのです。Aらの基本給は、定年退職時には月額約16万~18万円、再雇用後の1年間は月額約8万円、その後は月額約7万円となったのです。また、賞与・嘱託職員一時金について、Aらは定年退職前の3年間において、1回当たり平均約23万、22万円の賞与だったところ、嘱託職員一時金は、各1回当たり約8万~約10万円1回当たり約7万円~約10万円だったのです。
なお、Aらは、再雇用後、老齢厚生年金および高年齢雇用継続基本給付金を受給していたのです。高裁は、定年退職の前後を通じて、主任の役職を退任したことを除き、業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲に相違がなかったにもかかわらず、Aらの基本給と一時金の額は、定年退職時の正職員としての基本給と賞与の額を大きく下回り、勤続短期の正職員の基本給と賞与の額をも下回っているのは看過し難いと判断しました。
そして、Aらの基本給が定年退職時の基本給の額の60%を下回る部分及び嘱託職員一時金が定年退職時の基本給の60%に所定の掛け率を乗じて得た額を下回る部分は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとしたのです。最高裁は、原判決中、Aらの基本給及び賞与に係る損害賠償請求に関する会社敗訴部分は破棄を免れず、更に審理を尽くさせるため、上記部分につき、本件を原審に差し戻すとしました。
定年後再雇用における処遇について、定年到達時の給与の6割以下となることは珍しいことではありません。高年齢雇用継続基本給付金の制度では6割以下となる場合のあることを想定しています。そのような中、60%を下回る部分は無効としたのは地裁段階からマスコミに大きく報道され、企業の人事担当者としては、大いに戸惑うこととなったのです。
その点で、金額の相違だけでなく「制度の趣旨・目的を検討すべきである」とした最高裁の破棄差戻しの判断は多くの人が納得のいく結果になったのではないでしょうか。