コロナ禍の現在、在宅勤務を導入する企業は増えています。そして、在宅勤務を導入すると、プライベートな時間と労働時間の切り分けを従業員に委ねなければなりません。そのため、労働時間の正確な把握は難しくなります。特に、残業の取り扱いは難しく、みなし残業制度や残業の事前申告制度などを活用して、勤怠管理を行うことが必須と考えられます。
そもそも、在宅勤務と会社勤務の違いは、「働く場所の違い」でしかなく、残業代の支給有無に直接影響するものではありません。残業代の支給がなされるかどうかの問題で重要なのは、会社との雇用関係で、在宅勤務であっても、当然に労働基準法の適用を受けます。労働時間や割増賃金はもちろん、年次有給休暇や解雇などの規定はすべて適用されるのです。
また、労働基準法以外にも次のような労働法令の適用を受けます。
- 最低賃金法:最低限支払う賃金の支給など
- 労働安全衛生法:健康診断の実施義務など
- 労働者災害補償保険法:労災保険の給付など
- 労働契約法:労働契約の内容変更など
在宅勤務は「働く場所が会社ではなく、自宅」ということだけで、その他の労働条件等は会社に出勤している時と変わらないのです。
そして、在宅勤務は、オンオフの切り替えが難しく、夜遅くや休日でも仕事をしてしまう人が多く発生し、会社として、残業を行った場合の残業手当の支給はもちろん、残業時間等の管理も実施しないといけません。さらに、過重労働と認定されると、会社が責任を取らないといけなくなるのです。
これに関する裁判があります。
地方公務員災害補償基金熊本県支部事件 福岡高裁 令和2年9月25日
- Aは小学校教論として勤務していた
- 脳幹部出血を発症し、障害を負った
- 発症前1ヵ月間の時間外労働時間数は90時間であった(校内49時間59分、自宅作業39時間55分)
- 公務員災害認定基準の月100時間に近い90時間の残業時間であった
- 公務災害請求を行ったところ、認めらえず、熊本県が行った公務災害認定処分を不服として裁判を起こした
- 1審は、本件発症は「公務外」として請求を棄却となったので、Aは控訴した。
そして、高裁の判決は以下となったのです。
- 発症原因は、公務起因性を認めて1審の判決を取り消した。
この裁判で、ポイントとなったのは、自宅での作業時間についてです。1審では「自宅での作業時間について、労働密度や精神的緊張の程度の低さ」から、発症を「公務外」と判断したのです。しかし、高裁は1審の自宅作業時間について、「一般論」として認めつつも判断を覆したのです。なぜなら、Aの業務内容から、職場で終了させられなかったことが、自宅で作業を行うことを余儀なくされたとし、自宅作業の時刻から、睡眠時間が減少したことを考慮して、公務起因性を認めたのです。そして、注目すべきことは、作業時間の判断についてです。
具体的には、「パソコンのログオン、ログオフの時刻」「ファイルの作成・更新時刻」等を詳細に認定し、自宅作業時間を判断していることです。労働基準監督署の調査等でもパソコンのログオン、ログオフの時刻で労働時間を認定することがあります。しかし、本件の事例ではファイル作成の状況を踏まえて判断しているのです。 いずれにせよ、持ち帰り残業、リモート時の残業等で、「自宅にいるから・・・」として放置することは許されません。社員の健康管理の面、情報セキュリティの側面で問題とならないように、在宅勤務でも、勤怠管理は正確に実施しないといけないのです。仮に、残業等を放置し、過重労働と認定されたら、多額の損害賠償が発生する可能性が高くなるのです・・・。