2022年4月に中小企業にもパワハラ防止法が適用となり、本格的に施行されました。
しかし、本格的に動き出したものの、相談窓口設置など形式を整えれば違法にはならないため、会社が問題を「放置」するケースが増えています。仮に「放置して」いる間に、パワハラの被害者の社員が自殺でもしたら、会社も大きな責任を負うことになります。しかし、パワハラ行為を受けた社員全員が、精神的におかしくなり、自殺してしまうことはまれなのでは?と考えることは自然です。
では、パワハラ行為と自殺との関係についてみてみましょう。パワハラ行為があった場合で会社に責任が問われるのは、「安全配慮義務」「注意義務」となっています。そして、違法なパワハラ行為と判断された場合、上司の行為とうつ病発症及び自殺との因果関係について、関係があるか無いかの検証となります。
具体的には、上司の行為が
- 職場での、嫌がらせ、いじめ
- 職場での暴行
以上の行為の有無の確認を行います。
そして、同じようなケースと比較して精神的負荷を、客観的に判断するのです。それから、パワハラ行為とうつ病発症との間に、因果関係があるか無いかを判断するのです。さらに、会社が、うつ病から自殺を予見できたか否か?が、重要なポイントとなるのです。
これに関する裁判があります。
北海道銀行事件 札幌高裁 平成19年10月30日
- 銀行で勤務していたAの父Bが、Aは銀行における過剰な業務等の結果、うつ病に陥り自殺したと主張。
- 銀行に対し、不法行為又は債務不履行(安全配慮義務違反)に基づき、損害賠償を請求した。
そして、高裁の判断は以下となりました。
- Aが自殺に繋がるような精神的負担を感じていたことを事前に認識できない。
- 自殺を予見できた具体的状況があったことを認めることはできない。
結果、銀行側の主張が通った
この裁判を詳しくみてみましょう。業務において、Aについて過酷な業務が強いられていたわけではなく、Aの上司による部下に対する指導として、限度を超えた過度に厳しい指導があったわけではないとしました。Aは、投資信託販売の推進担当に任命され、支店及びAに課せられた投資信託の販売目標を達成しようと、仕事に取り組んでいました。
しかし、思うように販売実績を上げることができず、渉外会議において、支店長から厳しく注意されました。その後、相当の精神的負担を感じており、そのために軽症うつ病に罹患していたことも1つの原因となって、自殺したと考えられると判断したのです。Aは軽症うつ病に罹患していたと判断されました。また、Aに異常な言動や業務の変更等の申し出もなく、自殺等の不測の事態が生じる具体的な危険性まで、認識できる状況があったと認められなかったのです。上司から業務に関する確認を受けると突然飛び出して、そのまま行方不明となり、その3日後に自殺に至ったから、銀行でAの自殺を防止するとは認められないと判断されたのです。
また、自殺後に上司らが作成した書面の記載については、遺族らからAの死が銀行業務に起因すると認めるよう厳しく求められて、作成したものでした。よって、書面から支店長らに自殺の予見があったとは認められないと判断しました。
このように、自殺による損害賠償請求では、自殺が業務と相当因果関係にあるか否かのみならず、具体的な予見可能性があるか否かが重要なポイントとなります。もちろん、不幸なことは望まないのですが、リスクが発生しそうな場合は、会社として、予見可能かどうかは検証するべきでしょう。そして、専門家も交えて、対処方法を素早く検討することが重要です。