パタニティ・ハラスメントとは?

皆さんは、パタニティ・ハラスメント(以下「パタハラ」)を知っていますか?これは、主に男性労働者が、育児のために

  • 育児休業・子の看護休暇・時短勤務などの制度利用を希望したこと
  • これらの制度を利用したこと

を理由として、同僚や上司などから嫌がらせなどを受け、就業環境を害されることを言います。

マタハラ・パタハラは、妊娠・出産・育児の領域でのハラスメントを分かりやすく説明するための造語です。この領域で行われるハラスメントは、女性が妊娠・出産時に受けるものが、注目されて「母性」や「妊娠している状態」を表す「マタニティ」を使用した「マタニティ・ハラスメント」が認知されるようになりました。

その後、父親が育児休業制度等を利用することへの嫌がらせが、社会的に注目され、男性の育児に対して行われるハラスメントが「パタニティ・ハラスメント」で説明されるようになったのです。女性に対するものが「マタハラ」、男性に対するものが「パタハラ」と呼ばれるようになりました。なお、このような造語の経緯から、「パタハラ」も含めた妊娠・出産・育児で行われるハラスメント全体を「マタハラ」と呼ぶこともあります。

妊娠・出産・育児の領域でのハラスメントに関する法令は、「男女雇用機会均等法」、「育児・介護休業法」の2種類です。

  • 男女雇用機会均等法は「女性労働者」に対しての「妊娠・出産」に関連するハラスメントを規定しているため、「マタハラ」に関する規定
  • 育児介護休業法は男女を問わない「労働者」に対しての「育児・介護休業」に関連するハラスメントを規定しているため、「マタハラ」「パタハラ」双方に関する規定となります。

具体例としては

  • 「育児休業を取得したい」という相談を受けた際、「休むなら辞めてもらうしかない」などと言う
  • 時間外労働の免除を希望した部下に対して、「昇進はなくなるぞ」などと言う
  • 「育児休業を取得したい」という相談を受けた際、「休まれると困るから」などと言い取得を認めない
  • 「育児休業を取得する」と聞いた後、「仕事が大変になるから育児休業は取得しないでほしい」などと迫る
  • 「うちの部署は忙しいから、育児休業は利用しないように」などと日頃から発言している
  • 「育休をとる人には責任のある仕事を任せられない」などと言い、簡単な業務しか担当させない

上記の例は業務中、日々のコミュニケーションの中で、ふと発してしまう可能性の高いものばかりです。

また、実際に裁判もあります。

医療法人稲門会事件 大阪高裁 平成26年7月18日

  • 病院に勤務していた男性看護師Aが3か月の育児 休業を取得した。
  • 翌年度の昇給 (職能給)が行われなかった。
  • このため、昇給した場合の給与額との差額等の支払を求めた。
  • 病院の育児介護休業規定は,3か月以上の育児休業を取得した場合は、その翌年度の定期昇給時に職能給を昇給させないと定めていました。
  • 地裁で違法とまではいえないと判断された。

そして、Aが控訴して高裁で争われました。

  • 育児介護休業法10条では、事業主は労働者が育児休業を取得したことを理由に、解雇その他不利益な取扱いをしてはならない旨定めている。
  • 実際の取扱いで同法が労働者に保障した育児休業取得の権利を抑制し、ひいては同法が権利を保障した趣旨を実質的に失わせる場合は、公序に反する不法行為として違法になるものと解するのが相当である。

 この判例で注目すべきところは「男性の育児休業取得を理由とする不利益取扱いに係る事案」でいわゆるパタニティ・ハラスメントに係る珍しい裁判例です。労働基準法等に基づいた労働者の権利行使をめぐる争いで、権利行使を抑制し、権利を保障した法の趣旨を実質的に失わせる取扱いと認められれば公序違反として無効となるとしたのです。

このように、育児休業については、男女問わず「きっちりの休業を取ってもらう事」が重要となります。そして、育休が「とれる労働環境」が重要なのです。報復人事などを行うと、裁判沙汰にならなくても、SNSでの炎上などがあり、企業イメージが落ちてしまうこともあります。皆さんの会社でも気を付けてください。