ハラスメントについて、いくつものご相談をお受けします。
セクハラ、パワハラ、マタハラ等の問題は「主観的」な部分もあり、被害を受けた社員が「ハラスメントをどうとらえるか?」によって対応が異なるケースもあります。特に多いのは「パワハラ」についてです。先日も「パワハラを受けたとされる社員から、上司を懲戒処分にしてくれ!と言われたのですが・・・」との相談をお受けしました。
会社として、ハラスメントは許せない行為です。特に、社員から訴えがあった場合は、会社として放置することは許されず、早急な対応が必要となるでしょう。しかし、証拠も無く、「言った、言わない」だけでは会社としても判断に困ります。このような場合は、周辺の人への聞き取りなどが対応策としてあげられます。
- 声を荒げて怒っていた
- 対象者だけを仲間はずれにした
- チームミーティングで、つるし上げられた
このような状況があればパワハラの可能性があります。
しかし、最近ではメール等での「テキスト」のコミュニケーションが活発で、リアルに面と向かってのコミュニケーションより、はるかに多い場合もあります。このような状況でもハラスメントの発生があるのです。
これに関する裁判があります。
公立大学法人 A大学事件 東京地裁 平成31年4月24日
- 短期大学の教授Bはゼミ指導、進路指導をおこなっていた
- ゼミ生Cに対し、不適切な表現を含むメールをゼミ生全員に対して繰り返し送信していた
- その結果、Cは精神的に追い詰められ、通学できなくなり、退学することとなった
- Bの行為はアカデミックハラスメントに該当するとし、学校は就業規則により減給処分とした
- Bはこの処分の取り消し、慰謝料を求めて、裁判を起こした
そして、裁判所の判断は以下となったのです。
- 懲戒処分は有効で、その無効を前提とする慰謝料等の請求も認められない
この裁判を詳しくみていきましょう。
裁判で、懲戒処分の対象となったのはメールについてです。BからCに送信されたメールは以下となっていました。
- アホか
- 金魚のフン
- 馬さんと鹿さん
- このオオバカモノ。大バカ野郎
- 本気で怒らせるとどうなるか
以上のようなテキストを繰り返し送信していたのです。
さらに、ゼミ生らも閲覧可能であったメールに以下の記載もあったのです。
- ホンマのアホとはこのようなものどもを言うのでしょうね
- 以上のような者どもを採用する奇特な企業は、ブラック企業か、ダメダメ企業しかないでしょう
- ブラックを歩ませます
- 1年で退職です。あとはフリーター
以上のような記載があったのです。このようなメールは学生を侮辱し、人格や尊厳を傷つける言動に該当し、アカデミックハラスメントと判断されたのです。そして、メールの内容は学生に対する指導の範疇を逸脱していることは明らかとし、本件紹介処分の減給は有効と判断したのです。この裁判での特徴はアカデミーハラスメントが「メールの表現」で判断されたということです。一般企業に置き換えると「パワハラ」となるのでしょうが、イメージでは「怒る」「怒鳴る」等がパワハラの代表との印象があります。しかし、社員等への侮辱や人格否定、尊厳等を傷つけるのは「ハラスメント行為」とされるのです。
この裁判の事例に限らず、SNS等のテキスト表現もハラスメントの証拠として取り上げた裁判もあります。特にLINEは言葉が時系列で表れているので、証拠能力として高く評価された裁判もあるのです。テキストは証拠として残るものであり、また、言語より「ストレート」に相手に伝わりすぎることもあります。表現一つでも相手に「異なった印象を受けること」もあるので、慎重に取り扱う必要があります。指導を行う場合、このようなことも考えていかないといけない時代です。