新型コロナウイルスの感染リスクや緊急事態宣言等で、経済の状況が数か月前と一変しました。今までは人不足で「採用が難しい」「いい人がいなくて・・・」等人材不足を嘆く声がよくありました。しかし、世の中が一変して、採用よりも解雇、退職などの話題も少しずつ聞こえてきました。従業員に原因なく、人減らしのため解雇を行う整理解雇は要件がいくつもあり、実際に実行するにはハードルが高いです。
しかし、こんなご相談をお受けしました。「人材不足で、我慢して雇用していた者がいますが、協調性はなく、コミュニケーション能力も不足しているので、解雇したいのですが・・・」多くの社長は、解雇のハードルも高いと考えられております。
まして、
- 協調性の無さ
- コミュニケーション能力の低さ
等では解雇はできないと考えらえています。
実際の現場でも「解雇が厳しそうなので、退職勧奨で」という話が多いのも事実です。しかし、指導を繰り返しても改善の余地が見られない場合、解雇は有効となるのです。
これに関する裁判があります。
学校法人A学園事件 那覇地裁 令和元年11月18日
- Aは2年間の有期雇用契約(試用期間3ヵ月)で、日本語教師として採用された
- 試用期間中に協調性、コミュニケーション能力に不安があったので、試用期間をもう3ヵ月延長することとした
- 試用期間を延長したら、協調性、コミュニケーションがさらに悪化した
- 改善されなかったことを理由に延長期間満了で解雇を通告しました
- Aは「コミュニケーション能力の不備等を理由で解雇は無効」と主張して裁判を起こした
そして、裁判所は以下の判断を下したのです。
- Aの申し立ては却下となった
- 学校法人側の主張が通った
この裁判を詳しくみていきましょう。
Aが採用された直後のランチミーティングで「食べる時に話したくない」と言って、話し合い自体をはねつけたのです。
この発言によって、チームリーダーが「参加者に失礼だ」、「素っ気ない」として態度を改めるように指導を行った。これに対し、Aは「失礼か否かは主観の問題であり、権力のある人から失礼だと言われたら受け入れなければならないのか」と反論を行った。その後、Aは「最低限のコミュニケーション」での対応しか行わないようになり、非友好的な状況となった。
さらに、以下の問題行動がみられた。
- 無断で試験時期をずらした
- 勤務時間内にボランティアに参加した
- 退勤時間を他の同僚とずらした
以上のような問題点をA自身の判断で行い、その正当性を主張したのです。
これらを勘案して、裁判所は「職場で求められる最低限のコミュニケーション」の域に達していなかったと判断されました。そして、上司からの指導で改善される見込みも薄いことも判断され、職場環境悪化も認められると判断されました。会社が「試用期間満了をもって解雇を選択したのはやむを得ない」としたのです。よって、この解雇は合理性も相当性も認められるとしたのです。
協調性、コミュニケーション能力が理由で、解雇が有効になったのは珍しいかもしれません。しかし、裁判で「解雇の合理性も相当性も認められる」と判断されています。
判断されたポイントとしては、
- 本人がコミュニケーションを閉ざしたこと
- これにより改善の見込みが薄いこと
- 周りの職場環境を悪化させること
等がポイントとなるでしょう。
仮に、同様のケースや類似のケースについて、「改善させる指導」を行って、その結果をみることが重要です。絶対にやってはいけないことは、最初の段階で「あいつはダメだ」と決めつけて、改善の機会を与えないことです。この部分を省くと、裁判等では「不当解雇」と判断されてしまう可能性が高くなるのです。