新型コロナウイルスの感染が、まだまだ収束が見えない中、メンタルのご相談が増えております。新しい生活の環境に適用しないといけない時代となったのですが、急な変化で戸惑いを感じる人が増えているのでしょう。いきなり、在宅勤務を命じられ、ルールがあやふやな中、テレワークを実施した企業が多くあります。
今まで普通に働いていた人でも、少しの環境の変化で、精神的なダメージを受けることはあります。この場合、医師のアドバイスに従って休職をすることになるのが、一般的です。療養の期間を設定し、その間、休職するケースが多いですが、精神疾患の場合、休職期間終了時の復職の判断で、この判断が難しい場合があります。
それは、主治医が「復職可能です」と判断されても、産業医が「復職は難しい」と判断され、会社としての対応が難しいことがあります。
これに関する裁判があります。
SGSジャパン事件 東京地裁 平成29年1月26日
- 会社は、電子製品、食品等の鑑定、検査、検量および査定を目的として、第三者認証機関として認証サービスを業としていた
- Aは、顧客等に赴いて、審査業務に従事してきた
- Aは、不眠症状を訴え、うつ病を発症し、心療内科より向後1カ月の自宅療養を要する旨の診断を受け、1カ月の休職を申請した
- その後、Aは度々復職の希望を伝えたが、会社は復職を認めなかった
- 会社は休職期間満了通知書を送付し、就業規則により自然退職となる旨の通知をした
- Aは「うつ病は過重な業務等に起因する」ので、退職の告知(解雇)は違法・無効と主張し、労働契約上の地位にあることの確認を求め、訴えを提起した
そして、裁判所は以下の判断を下したのです。
- 退職の告知は有効である(会社側の主張が認められた)
この裁判を詳しくみていきましょう。
まず、裁判の争点は、
【1】うつ病の発症が業務に起因するものといえるか
【2】Aは復職可能であったか
の2点です。
判決は以下のように判示して、Aの訴えを斥けたのです。
判決のポイント
【1】心理的負荷の評価
- 早朝夜間の持ち帰り残業が恒常的に発生する業務量があったとはにわかには認めがたい
- 時間外労働時間は多い月でも月40時間を超えることはない
- 「上司によるパワハラや嫌がらせ」という事実は認められない
精神障害の労災認定基準上の負荷の強度は「中」であり、疾病の業務起因性を認めることはできない。
【2】復職妨害の有無
- 事業部長らは、Aに対し、十分に休養をとるよう指示しつつ、面談を重ね、誠実に対応していた
- Aは、会社から休職前のポジションに復帰させない方針の連絡を受け体調悪化を理由に、休職を続け、不合理な理由で面談を拒絶する態度をとっていた
- 事業部長らが、Aの意図に沿った行動をしなかったからといって、復職妨害になるわけではない
そして、復職可能性の有無もみてみましょう。主治医が「復職可能である」との診断をするにあたり、復職後求められる労働能力や職場の状況について、会社と情報を共有していたことを認める証拠はないとしました。
産業医は、Aについて
- 「自殺をほのめかす」から「職場復帰できない」
- 会社役員との面談を当日になって体調不良によりキャンセルしていること
等に照らすと、休職期間満了時までに労務の提供ができる程度にAの症状が回復していたとは認められないとしたのです。
事例の裁判では、主治医と産業医の復職に対する判断が、正反対となっていますが、裁判ではそれぞれの判断に対し、詳細に紐解きを行って会社の主張を認めたのです。
うつ病に代表される精神疾患は、その判断が通常の病気と異なりとても難しいものです。まずは、主治医の判断を仰ぎ、それでも疑問等が発生する場合はセカンドオピニオンの意見を聞きましょう。コロナ禍の現在、このような問題が大きくならないことをのぞんでおります。