競業避止義務の影響の範囲について

社員が入社する際や退職する際に、ライバル会社や同じ業界で働かないように、競業避止義務契約を締結することがあります。競業避止義務は、入社時の誓約や就業規則の競業禁止特約によって定められ、会社の不利益となる競業行為を禁ずるものです。

義務に違反した場合は、「退職金の支給を制限」「損害賠償を請求」「競業行為の差止めを請求」といった処罰を取り決めています。しかし、退職者に対する競業避止特約は、「退職者の職業選択の自由」「営業の自由(生計の手段の選択の自由)」との関係で、影響は微妙です。仮に書面化されていても、「その効力については無効」「限定的」と解されることが多いです。

競業避止特約については、退職後、退職金の減額・没収、損害賠償請求、競業行為の差止め請求で問題となることがあります。義務の対象は、在職中の違反行為と、退職したあとの業務です。会社は自社のノウハウや機密漏洩は避けたいでしょうが、退職してまで従業員の行動を取り締まることは、職業選択の自由を奪ってしまいます。よって従業員と企業で、競業避止義務の有効性について裁判によって争われることも多くあります。取り決めた競業避止義務が有効性を判断するために、経済産業省が発表している「近年の判例におけるポイント」が記載されています。

参照した資料では、次の6つの観点から、競業避止義務契約の有効性が判断されています。

  • 守るべき企業の利益があるか
  • 従業員の地位
  • 地域的な限定があるか
  • 競業避止義務の存続期間
  • 禁止される競業行為の範囲について必要な制限があるか
  • 代償措置が講じられているか

最近の裁判でも、この判断がなされています。

レジェンド元従業員事件 福岡高裁 令和2年11月11日

  • 同業他社へ転職した保険営業マンAがいた。
  • Aが勤務していた保険代理店が、自社の顧客への営業活動を理由に損害賠償を求めた。
  • 誓約書に退職後の競業避止特約があった。
  • 第1審は一部の損害を認めた。

そして、控訴が行われ、福岡高裁は以下の判断をおこなったのです。

  • 顧客すべてに対する営業禁止は、公序良俗に反するとした。
    ・これまで獲得した顧客がすべて含まれ、Aの不利益が大きく、また、金銭の代償措置もなかった
  • 顧客から引き合いを受け、Aが勧誘したと認められないものは競業避止義務の対象外である。

この裁判を詳しくみていきましょう。

Aが競業避止特約の義務を負うことについて、会社が金銭の交付等の代償措置を講じたとは認められませんでした。また、Aが会社に在職中に受領した賃金や報酬が、実質的な代償措置であると認めることもできないと判断されたのです。競業避止特約により、Aが会社退職後に既存顧客を含む全ての顧客に対して営業活動を行うことを禁止することは、公序良俗に反するもので認められないとしたのです。そして、競業避止特約の内容を限定的に解釈することにより、その限度では公序良俗に反しないものとして有効となると判断したのです。少なくとも、Aが自らの既存顧客に対して、顧客から引き合いを受けて行った営業活動は、勧誘をしたと認められないとし、これは「競業避止義務の対象に含まれない」と判断されたのです。この判決は結果として、会社からAへの競業避止義務での損害賠償請求は認められなかったのです。Aが入社する以前の別会社の既存顧客があり、会社入社時にその既存顧客を移管していたという経緯によるところが大きいです。顧客から引き合いを受けたもの」は勧誘したとは認められず、競業避止義務の対象に含まれないとしたのです。

このように、最近の裁判でも経済産業省の資料に記載があった考え方と同様となっております。競業避止義務を守ってもらうことは、退職者に制限をかけるので、現実的に無理がありますが、何もしないと会社の存続に係る場合もあるので、規程、誓約書等の見直しおすすめいたします。