業務命令は、どんな時に無効になるのでしょうか?

先日、顧問先の社長から、以下の話がありました。「従業員が業務命令を聞いてくれなくて、勝手な判断で動いているんですが、どうしたらいいですか?」皆さんの会社でもこんなことはありませんか?従業員である以上、会社の命令に従うことは当然です。皆さんの会社の従業員さんは認識していますか?この認識がブレてしまうと、トラブルの火種になってしまいます。

そこで、業務命令の根拠をみてみましょう。まず、雇用関係がないならば、従業員は会社の業務命令を守らなくてもOKです。逆に言えば、雇用契約がある場合、従業員は業務命令に従わなければならないのです。従業員は業務命令に従った労務を提供し、給料を得るのです。結果として、「雇用契約がある=会社が従業員に業務命令を強制できる」という根拠なのです。

そして、業務命令を拒否できるのは、正当な理由がある場合のみということです(特例)。

原則として、従業員は会社や上司の業務命令には従わなければなりません。では、業務命令に従わなくても問題ない場合を考えてみましょう。

それは

(1) 業務命令が不当な動機、目的で発せられた場合

(2) 著しい不利益を与えるなどの合理性を欠く場合

となります。

これに関する裁判があります。

スクエア・エニックス事件 東京地裁 令和4年3月29日

  • ゲーム開発のゲームクリエーターAはゲーム作成のプロジェクトに参加していた。
  • Aと下請会社との関係性が悪化していった。
  • 下請会社は、Aとの関係性の悪化により、Aとコミュニケーションがうまくいかず、Aを飛び越してプロデューサーに相談していた。
  • Aはプロデューサー、他のメンバーとも関係が悪くなった。
  • 会社は「このままだとゲーム完成が危ぶまれる」と考え、Aに「職務停止命令」を発した。
  • Aは「この業務命令は権利の濫用」と主張し、裁判を起こした。

→違法な命令で精神的苦痛を被ったとして、慰謝料500万円を要求

そして、裁判所は以下の判断をしたのです。

  • 職務停止命令は業務上の必要があり、有効である。
  • Aは給与の減額等もなく、著しい不利益はない。
  • 会社側の主張が通った。

この裁判を詳しくみてみましょう。

上記のとおり、雇用関係があれば業務命令に従うのは、従業員の義務となります。

しかし、

(1) 業務命令が不当な動機、目的で発せられたもの

(2) 著しい不利益を与えるなどの合理性を欠く命令

と認められるときは違法で、無効となるのです。

今回の件は、Aが下請け会社に対し、高圧的かつ理不尽な要求を行い、他の従業員との関係悪化を招き、信頼関係も崩壊していたのです。そして、会社がプロジェクトの崩壊を防ぎ、ゲームを予定通り完成させ、発売するため、「職務停止命令」という業務命令を発したのです。よって、Aが主張するような「権利の濫用」等は認められず、この業務命令は必要な措置と判断されたのです。

従業員が、業務命令を拒否した場合、会社は就業規則等に基づき、

  • 口頭注意
  • 叱責
  • 出勤停止
  • 減給
  • 解雇

などの懲戒を行うこととなります。

従業員は原則として会社の業務命令には従う義務があるので、これに従わない場合は債務不履行となり、懲戒処分を受けることとなります。

だから、会社が業務命令を発する場合、
上記(1)と(2)に抵触しないかを考える必要があるのです。
そして、従業員には「業務命令に従う義務」があることを伝えましょう。

業務は決して「お願いベース」で進むものではありません。まして、従業員が「業務の好き嫌い」で仕事を選ぶなんてあり得ないのです。

従業員はあくまでも、業務命令に従って、業務を回すことが義務なのです。
だから、従業員が嫌だと思ったとしても、よほどの特殊性がない限り、会社が発した業務命令はマストなのです。