事業所を閉鎖しても、解雇はできない?

後継者不在のため、会社を閉鎖するという話をよく聞きます。この場合、従業員はどうなるのでしょうか?事業が終了となるので、全員解雇でも有効となるのでしょうか?

まず、会社側の理由で「解雇」となると、「整理解雇の要件」をクリアする必要があります。
この要件は「整理解雇の4要件」と呼ばれ、以下となります。

  • 人員整理の必要性
    どうしても人員を整理しなければならない経営上の理由があること。
  • 解雇回避努力義務の履行
    希望退職者の募集、役員報酬のカット、出向・配置転換、一時帰休の実施など、解雇を回避するためにあらゆる努力を尽くしていること。
  • 被解雇者選定の合理性
    解雇するための人選基準が評価者の主観に左右されず、合理的かつ公平であること。
  • 解雇手続きの妥当性
    解雇の対象者および労働組合(または労働者の過半数を代表する者)が十分に協議し、整理解雇について納得を得るための努力を尽くしていること。

この4つ要件をみてみると、かなりハードルが高いと感じられますが、「単に会社を閉鎖するから、はい、解雇」は通用しないという事です。

様々な解雇を回避する努力を行い、役員自らも血を流し、従業員に納得いくように説明等を実施して、初めて要件がクリアされるのです。そして、要件をクリアしないと「法的に無効」となってしまうのです。

これに関する裁判があります。

ネオユニット事件 札幌高裁 令和3年4月28日

  • 施設を閉鎖し、事業を終了して、施設のスタッフらを全員「整理解雇」としました。
      • 会社はスタッフらに対して、解雇予告通知書を交付し、解雇、施設閉鎖を告知しました。
      • スタッフらに対しての説明の機会は説明会のみ。
      • スタッフらが解雇の無効を主張し、逸失利益や慰謝料の支払を求めた。

      そして、札幌地裁は以下のとおり判断しました。

      • 整理解雇の4要件のうち、人員削減の必要性は事業廃止の必要性から検討すべき。
      • 「人員削減が必要=整理解雇を選択する必要性」が認められる。
      • 人選の合理性も別途検討する必要はない。
      • 「解雇を有効」と判断。

      しかし、これに対して、スタッフらが控訴したのです。そして、札幌高裁は以下の判断を下したのです。

      • 施設の閉鎖は不合理とはいえず、人員削減の必要が認められるし、人選の合理性も認められる。
      • しかし、スタッフらに対する解雇は手続きが相当ではない。
      • 合意退職に応じてもらえるよう調整するなど、解雇回避のための努力が尽くされたといえない。
      • 「解雇は無効」と判断した。
      • スタッフらに対する逸失利益(最大給与6か月分)や慰謝料30万円の損害賠償を認めた。

      整理解雇は

      • 人員整理の必要性
      • 解雇回避努力義務の履行
      • 被解雇者選定の合理性
      • 解雇手続きの妥当性

      の4要素を総合勘案してその有効性が判断されます。

      1審判決では、(1)の人員削減の必要性が認められることで、整理解雇が必要と認められました。そして、(3)の「解雇者の人選も検討する必要はない」と判断されたのです。さらに(4)の解雇に関する手続きも事業廃止までの時間的制約の中で、「できる限りの努力を尽くしたと認められれば足りる」とされました。

      一方、高裁判決は、1審判決とほぼ同旨であったものの、(2)の解雇回避措置などにおいて、会社の対応は不十分であるとして1審判決の判断を変更するに至ったのです。事業廃止による人員解雇が問題となった場合、整理解雇の4要素がどのように判断されるかは、裁判例の間でも相違があります。この会社は事業閉鎖をした施設の他にも、塗装・リフォーム業も営んでおり、全面的な企業閉鎖ではなかったのです。

      少なくとも企業は継続する以上、

      〇合意退職による解雇回避措置の努力

      〇解雇までの丁寧な手続き

      といった行動を尽くす余地があったと認められたことが、判断に影響したのでしょう。

      このように、会社の「一部の事業閉鎖」などの整理解雇は、

      〇事情の説明

      〇解雇回避義務の徹底

      などを必ず押さえる必要があるのです。このポイントを外すと、この裁判のように、みなさんの会社も問題になってしまうのです。