パワハラの責任は、会社にもあるのでしょうか?

2022年4月から中小企業にもパワーハラスメントの防止に関する法律(改正労働施策総合推進法)が適用されました。みなさんの会社は、この準備は万全でしょうか?パワハラ行為をした者は、民事上の不法行為責任を負い、その場合には被害者の損害に対して賠償責任が生じます。その金額は数千万円に上ることもあるのです。さらに、違法性が高いとみなされた場合、刑事責任が発生するケースもあります。たとえば、上司が部下に対し、蹴ったり殴ったりしたら暴行罪や傷害罪が成立します。さらに、暴力ではなく言葉だけであったとしても、名誉毀損罪や侮辱罪が成立する可能性が現れるのです。

一定の要件に該当する場合には、

〇脅迫罪

〇強要罪・強要未遂罪

が成立するケースも想定されます。悪質な場合には、警察に逮捕されて裁判となり、有罪判決を受けるケースもあります。パワハラの直接的な加害者の場合は以上となりますが、業務上で発生するので、会社の責任はどうなるのでしょうか?

そこで、パワハラにおける会社の責任をみてみましょう。パワハラと認められたケースが発生したら、加害者の従業員だけでなく、会社の責任も問われる可能性があります。

その責任は「不法行為責任」「債務不履行責任」の2つが存在します。不法行為責任においては、使用者責任がポイントとなります。パワハラは「業務の執行」の要件を満たす場合が多く、その場合には使用者である会社も損害賠償責任を負い、その範囲はパワハラ加害者本人と同じものとなるのです。もうひとつの債務不履行責任は、会社の「安全配慮義務」の不履行の損害賠償責任を負わせるというものです。会社は従業員との雇用契約で、適切な就業環境を提供すべき義務を負います。それにもかかわらず、パワハラ問題を放置して、従業員がメンタルヘルス疾患を発症してしまった場合等、安全配慮の義務を怠ったとして債務不履行責任が発生します。

このように、パワハラを直接起こした従業員と同様の責任が、会社にも降りかかってくるのです。だから、会社として「対策」を立てなければならないのです。

具体的には、

  • 会社によるパワハラ防止の社内方針の明確化と周知・啓発
  • 苦情などに対する相談体制の整備
  • 被害を受けた労働者へのケアや再発防止 等

が挙げられます。

もし、パワハラが常態化して改善が見られない会社等は、会社名等が公表されることになります。まずは、パワハラ防止の社内方針の明確化と周知・啓発を実施しましょう。

この重要性がわかる裁判があります。

関西ケーズデンキ事件 大津地裁 平成30年5月24日

家電量販店の店員Aが社内ルールに違反して、取り寄せた商品を値引き販売するなどしていた。

  • 店長Bはこの不適切な行為について注意したところ、Aは「売ってるんだからいいやん」と述べた。
  • そこで、Bは、声を荒げて叱責した。
  • Aはその後、自殺し、遺族が「パワハラの為に自殺した」と主張してBと会社を訴えた。

→遺族は「B:不法行為あり、会社:安全配慮義務違反」と主張

そして、裁判所は以下の判断をしました。

  • 店長Bの叱責は、ある程度強いものであったと言えるが、何度も不適切な処理を繰り返したAに十分な反省は認められず、Aは叱責を受けてもやむを得ない部分がある。
  • パワハラの一環と評価することはできない。
  • 会社の安全配慮義務違反を認めることはできない。

特に、会社の違反が認められなかったのは、

  • パワハラ防止を周知していた
  • パワハラに関する相談窓口を人事部及び労働組合に設置した
  • 管理職従業員にパワハラの防止についての研修を行っていること

などの防止の為の啓蒙活動、注意喚起を行っていることが認められたのです。

よって、会社は「安全配慮義務を履行していた」となったのです。もし、上記の対策を怠っていたら、結論は真逆になっていたでしょう。

パワハラは、加害者だけでなく、会社等も損害賠償責任を負う可能性があり、社員が精神的、身体的苦痛を感じ、精神疾患につながるものでもあるのです。だから、パワハラ対策の取り組み内容を周知し、相談窓口を設置するとともに、パワハラ予防の研修等を実施していくことが求められます。