管理職に未払い残業が認められたら…

管理職が労働基準法の「管理監督者」にあたるかどうかは、残業代の支払いの有無に関係します。労働基準法の「管理監督者」とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者で、この場合は、労働時間、休憩、休日の規定は適用されません。よって、残業代の支払いは必要ありません。ただし深夜勤務については規定が除外されていませんので、午後10時から翌朝5時まで働いた時は、深夜勤務手当の支払いが必要となります。

管理監督者であるかどうかは、以下の点を総合的にみて判断されます。

  • 重要な職務と権限が与えられていること
  • 出退勤について管理を受けないこと
  • 賃金面で、その地位に相応しい待遇がなされていること

つまり、経営方針、労働条件、採用の決定に関与していて、経営者と一体的な立場にあることが求められます。そして、人事考課を行うことや、遅刻や欠勤の承認など労務管理上の指揮権限があるかどうかも、管理監督者の判断要素となります。

但し、管理監督者であっても出退勤時刻の把握は必要です。よって「勤務時間を拘束する」「遅刻や早退分を給与から減額する」「遅刻早退を懲戒処分の対象としている」以上は、労働時間に対する自由裁量がないと判断され管理監督者とは認められません。

また、賃金では「管理監督者としてふさわしい待遇を受けているか」「一般社員との年収額が逆転していないかどうか」が判断のポイントとなります。 このように、法的に管理監督者といえる管理職のハードルはとても高いのです。よって、会社が独自に判断して「管理職」として残業等の支払いを行わなくても、法的には「支払い義務あり!」と判断されるケースがよくあるのです。ただし、管理職手当等を支給している場合で、未払い残業が認められたら、管理職手当を取り返すことが認められた裁判があります。

恩賜財団母子愛育会事件 東京地裁 平成31年2月8日

  • 医長が残業代を請求した
  • 逆に病院から管理職手当の返還を求められた
  • 医師には、時間外見合いの医師手当も支給されていた
  • 前に労基署から残業代に関して是正勧告を受けるなど管理監督者でないことに争いはなかった

そして、裁判所は以下の判断を下したのです。

  • 内規に時間外労働等の対価と規定された医師手当を固定残業代と認めた
  • 医長に管理職手当の受給権限はないとし、不当利得返還を命じた

この裁判を詳しくみていきましょう。

給与規則に「管理又は監督の地位にある職員に対し管理職手当を支給する」と規定しています。そして、労基法「監督若しくは管理の地位にある者」と類似した表現を使っているので、これらは同一の内容を規定したものと理解できます。よって、管理職手当の支給対象者は法律上の管理監督者であると理解するのが相当です。

団体の規定上、管理職手当は、労基法上の管理監督者に該当する者に対して支払われるものと認められます。だから、医長には管理職手当の受給権限はないから、過去に支払われた管理職手当を不当利得として返還すべき義務を負うことになるのです。また、管理職手当は、割増賃金の基礎となる賃金に該当しないと確認したのです。

 この裁判は、未払残業代の請求で、反訴として、既払いの管理職手当について不当利得返還請求を行って認容された珍しい裁判例です。管理監督者扱いをし、管理職手当を支払っていたにもかかわらず、管理監督者に該当しないとして未払残業代請求が行われた場合に、考えるべき項目があるということを教えてくれた事例となります。